英国ロイヤル・オペラ来日公演で、ヴェルディ:椿姫 の初日(神奈川県民ホール)。

キャストは以下の通り。


演出:リチャード・エア

アントニオ・パッパーノ指揮ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団

ヴィオレッタ:エルモネラ・ヤオ(第1幕) アイリーン・ペレス(第2、3幕)

アルフレード:ジェームス・ヴァレンティ

ジョルジョ・ジェルモン:サイモン・キーンリサイド

フローラ:カイ・リューテル

ドゥフォール:エイドリアン・クラーク

グランヴィル:リチャード・ウィーゴールド

ガストン:パク・ジミン

アンニーナ:サラ・プリング 他


アンジェラ・ゲオルギューが公演直前に「娘の手術に立ち会うため」降板したのは確か10日前くらい(ちなみに、この娘はゲオルギューの実の娘ではないそうだ)。

代役として、エルモネラ・ヤオが同時に発表された。

ゲオルギュー降板の理由はNBSのHPにも出ていて、これについてどうこう言うべきでもないんだろうが、正直な感想を言わせてもらえば、プロ意識に欠けているのでは?

まあ、もうそんなことはいい。

とにかく、代役で既にヴィオレッタ役で名が売れているヤオが演じたのだ。少なくとも第1幕は。


第1幕、最初にディレクターが出てきて、ゲオルギュー降板を詫びる。

冒頭からパッパーノのオケのテンポが遅いなあ、と思っていたが、第1幕通じてゆるゆるのテンポ、全くしまりがない。パッパーノって、もっと切っ先鋭い演奏をすると思っていたのに意外。しかも木管がとても粗い。噂通り、このオケはいまいちか。

さらに、代役のヤオ、歌い出しの音程は悪いし、「そはかの人か」のコロラトゥーラ、高音が全くでないのである(ちなみにこのアリアの途中で拍手が起こり、とんでもなく下品なブラヴォーが出たのは興ざめ)。当然1幕最後のハイEsはなし(つまり、原曲通り)。さらに、アルフレード役のヴァレンティも全く凡庸な歌唱。ああ、今日はダメだな、と1幕が終わって時点でがっかり。カネ返せと言いたい気持ちだった。


第2幕冒頭、再度ディレクターが登場して、皆様おわかりの通りヤオはアレルギーで声が出ず、第2幕以降歌えないので、アメリカ人のアイリーン・ペレスが歌うとのこと。

私の長いコンサート人生でも、こういうことは初めてである(欧米では結構あるみたいだが)。

アイリーン・ペレス…どっかで聞いたことがある。…2008年のザルツブルク音楽祭で、グノー「ロメオとジュリエット」をネトレプコが出産で降板したときの代役である(大半をマチャイーゼが歌い、私が行った日だけペレスが歌ったのだ)

http://ameblo.jp/takemitsu189/entry-10133127189.html


さて第2幕から出演したペレス、声はちゃんと出ているし、演技もなかなかであって、この歌手全く問題ないんじゃないか?最初から彼女が歌えばよかったのではないか?というのが客席の雰囲気になったような気がする。

しかし、ヴィオレッタが「美しく清純なお嬢様にお伝えください」と歌う箇所の歌手とオケの弱音を聞くと、今回合わせるのが初めてとは到底思えず、合わせたことがあるのは明白。そもそも、カヴァーでこれだけの歌手を連れてくるというのはリスク管理がさすがである。第2幕から登場したジョルジョ・ジェルモンはキーンリサイド。彼がジョルジョ・ジェルモンを歌うとはすごく意外。いわゆるイタリアオペラの声とは全く違っていて、あまり深みはないけれど、いかにも英国人好みの紳士的な声である。そういえば、今回の主役3名は、結果としてみな英米人だ。アルフレード役のヴァレンティ、第2幕からは割とよくなったけど、やはりイタリアオペラよりフランスオペラ向きの、ビロードのような声である。

パッパーノのオケも、第2幕からは割と快調。


リチャード・エアの演出、これはもうかなり長いものであるが、変な読み替えもなく、音楽を邪魔しない。しかし、第3幕最後で、ヴィオレッタが部屋を走り回るのは少々違和感がある。


しかし、今日の客の大半はゲオルギューがタイトルを歌うからS55,000円のような高額を負担したわけであって(私は安い席だったのでよかったけど)、最初からペレスが歌うとわかっていたらチケットはこんなには売れていないだろう。そのうえ、広告が多いブログラムはなんと3,000円!こんな高いプログラムはなかなかない。たいした情報量ではないのに。

そんなわけで、来週のNHKホールでは誰が歌うんだろうか、心配。ヤオは、最悪な日本デビューとなってしまった…