今日は本当に素晴らしくて、涙が出た…

クラシックファンを長らくやっていて、こうした演奏にたまに巡り合わせるときは、本当に至福のときである。今日は日本のワーグナー演奏史に残る素晴らしいプロダクションじゃなかろうか(日本のワーグナー演奏全部聞いたわけでもなんでもないけど)。東京でこんなワーグナーが聴けるのであれば、バイロイトまで行く必要なない!……ような気がする。


ダン・エッティンガー指揮東京フィルの演奏、キース・ウォーナー演出。配役は


【ジークフリート】クリスティアン・フランツ
【ブリュンヒルデ】イレーネ・テオリン
【アルベリヒ】島村武男
【グンター】アレクサンダー・マルコ=ブルメスター
【ハーゲン】ダニエル・スメギ
【グートルーネ】横山恵子
【ヴァルトラウテ】カティア・リッティング
【ヴォークリンデ】平井香織
【ヴェルグンデ】池田香織
【フロスヒルデ】大林智子
【第一のノルン】竹本節子
【第二のノルン】清水華澄
【第三のノルン】緑川まり

【合 唱】新国立劇場合唱団

キース・ウォーナーの演出、今回もいろいろと考えさせられる素晴らしいものであるし、今もって古さを全く感じさせない。当初、ポップ・アート調と言われたが、そんな一言で片付けられるような単純な演出ではなくて、細かい部分で観るものを考えさせる凝りに凝った演出だ。カネも相当かかっているし、新国立劇場の最新鋭の設備をフル活用しているし、デジタル感覚でわかりやすい部分もあるし、CGを駆使した映像に今更ながらはっとさせられる。

それにしても、黄昏の最後の最後は、「ええっ?」と思われる意表を突いたもので、何年か前も驚いたが、今日も驚いてしまった。この4夜に渡る大作は、試写会か何かだったのか??

この演出は今回で終わりだそうで、セットは廃棄になるらしい。もったいなさすぎる。再演を促す署名活動でもしようかしら、とさえ思う。


今日も、先月のジークフリート同様、歌手陣のレベルが高い。

イレーヌ・テオリンのブリュンヒルデの迫力はすごい。2008年のバイロイトのイゾルデを歌い、コペンハーゲン王立歌劇場で彼女が出演するリング全曲のDVDがこれまたすごいらしい。まさに、猛女ブリュンヒルデを地で行くすごさ。繊細さよりも、声のでかさとかスケールの大きさで、他の歌手を圧倒している。特に第2幕には圧倒されてしまった。

ジークフリート役のフランツは、先月も述べたが、昔はただただ馬力だけのテノールだったのだが、ここに来て、ジークフリートのつぼを押さえているというか、まさにジークフリートにぴったりのバカさ加減というか、恐れを知らぬ若者らしさがとてもいい。

ハーゲン役のダニエル・スメギ、役柄通りの暗い声。グンター役のアレクサンダー・マルコ=ブルメスター、ギービヒ家の首領らしくかっこいい。彼はバイロイト歌手である。このほかの歌手、グートルーネを歌った横山恵子を含め、とてもよかったと思う。3人のノルンのうち一人はなんと緑川まりである。


しかし、今日も先月のジークフリート同様、オケがとてもよかった。冒頭の和音がいきなり音程悪くてずっこけたが、総合的にはすごくよく鳴っていたし、なんといってもエッティンガーの地の底からわき上がるような音楽が最高である。金管群がとても健闘していて、トランペットなど日本のオケとも思われぬいい音を出している。これがあの東フィルなのか??

個人的には信じられないことだが、今日のカーテンコールで、ハーゲン役のスメギに約1名、エッティンガーに数名のブーイングが飛んでいて、エッティンガーに対してはブーイングとブラヴォーが合戦状態になった。私はもちろんブラヴォーを叫びまくったのだが…まあ、人によって感じ方は違うからどうこう言うつもりもないが、あの演奏以上に何を望むんだろうか…感性が違う人というのは、結構いるものなんだと思う。

ちなみに先週の日曜の公演はもっとブーイングが激しかったらしい。

それにしても、日本人歌手の健闘には喝采を送りたい。カーテンコールでいつも思うのは、日本人歌手に対する観客の冷淡な反応だ。今日なんか、外人歌手に全くひけをとらないくらいいい歌唱だったと思うのだが…


ちなみに、今日のオケに下稽古をつけた副指揮者J君は、私の中学・高校ブラスバンドの後輩である。非常に誇らしいことである。


この夏、幸いにしてバイロイトに行く幸運に恵まれ、今から指環の対訳本を読み始めている。これらの台本、ワーグナーが作った。この人は音楽史上でも巨人だが、文学史上も巨人であることがわかる。この台本、私が言うのもなんだが、実によくできている。対訳本を読むといろんなことがわかって楽しい。この歌詞は前の幕のこの部分の歌詞と呼応しているとか、この動作は古ゲルマンのしきたりだとか。