ジョナサン・ノット指揮バンベルク交響楽団(バイエルン州立フィルハーモニー)の来日公演。ブラームス・チクルスとしては2日目(らしい)(サントリーホール)。曲目は


ブラームス:悲劇的序曲

ヴァイオリン協奏曲(Vn:クリスティアン・テツラフ)

(アンコール)

バッハ:パルティータ第3番~ガボット

バッハ:ソナタ~アレグロ・アッサイ


ブラームス:交響曲第2番

(アンコール)

ブラームス:ハンガリー舞曲第2、10番


ノット指揮のバンベルク交響楽団、2006年に来日した際、マーラーの5番を聴いたことがあるのだが、正直言ってそのときは全くいいと思わず。音は確かに重々しいが、ディナーミクの変化に乏しく、大味、荒削りという印象しかなかったのである。よって、今回も全く期待していなかった。


ところが、最初の曲、悲劇的序曲を聴いて、驚き。重厚な低音、ごつごつした手触りで、これぞブラームスにぴったりの音だ!

旧西ドイツの放送オケは、概して、よく言えば洗練されていて、悪く言えば画一的で個性がないというのが私の意見である。その点、このバンベルク響は、そうした画一的な放送オケとはやはりひと味もふた味も違うのである。もともとは、チェコ在住のドイツ人によって結成されたプラハ・ドイツ・フィルのメンバーが戦後帰国して結成したオケであるわけだが、今に至るまでよくこの音をキープしているものである。もちろん聴いたことはないわけだが、これが戦前のドイツの音なんだろうか?コントラバスがブンッ、とうなるのは快感!そして、その重厚な低音にのせて、トランペットがティンパニに乗って高らかに鳴る…すばらしい!交響曲第2番の2楽章あたりは涙が出そうだった。ブラームスは、こうでなくてはいかん!


私の席は前から3列目で、弦楽器の音が手に取るように聞けたのであるが、ごつごつした手触りでありながら、つややかな部分もある。ちなみに、第1、第2ヴァイオリンは対向配置であったが、第2Vnの左はチェロ、その左がヴィオラで、コントラバスは右手奥。ヴィオラが正面を向いているので、中音域が明快に聞こえたのがおもしろかった。

私の席からは、木管はやや引っ込んで聞こえたのであるが、オーボエなんかも、巧いけどでしゃばらず、時として聞こえなくなったりする(落ちたのか?)。


そんなわけで、最初から最後まで一気に集中して聴いてしまった。あっという間だった。ノットの指揮、6月にN響で聴いたときもシャープな指揮ぶりがすばらしかったが、今回も鮮烈な指揮ぶり。かといって、強引にひっぱるということはなくて、オケの特質を活かした指揮だった。この人、よくよく見ると同じ英国人のスティングに似ている。


ヴァイオリン協奏曲のソロ、テツラフ、この人も私は大変に好きなソリスト。使用楽器はいわゆる銘器ではなく、グァルネリ・デル・ジェスをモデルにしたモダン楽器を使用している。そのせいなのかどうかわからないが、音がかなり鋭角的、とがっているので、そこは好みが分かれるかもしれない。現に、3列目でヴァイオリンソロの真っ正面の私の席では、耳が痛くなりそうだった。ここのところ、9月からレーピン、ツィンマーマン、そしてテツラフと名手のブラコンを連続して聴くというものすごい贅沢をしているが、その中でも今日のテツラフが一番攻撃的かもしれない。ときとして荒削りに感ずる瞬間もあるが、正確でないかというと全くそんなことはない。3楽章、こんな激しく弾いてたら弦が切れやしないか?と思ったその次の瞬間、音を大きくはずしたが、大事には至らず。よかった。以前、ヴェンゲーロフが「クロイツェル」をとりつかれたように弾いたときは弦が切れたことがあったが。


ちなみに、バンベルク、従来私はハンブルクとかと同様、北ドイツにあるものとてっきり思っていたが、バイエルン州立フィルハーモニーという肩書きからもわかる通り、バイエルンのオケである。地図を見ると、フランクフルトから、バイロイト方面に東に向かったその途中にある。