アンドレ・プレヴィン指揮NHK交響楽団定期(NHKホール)。曲目は

リーム:厳粛な歌

R・シュトラウス:歌劇「カプリッチョ」~「最後の場」(ソプラノ:フェリシティ・ロット)

R. シュトラウス / 家庭交響曲 作品53


9月はなぜかABCとも行けずじまいだったので、今シーズン初のN響。今シーズンから首席客演指揮者に就任したプレヴィンの指揮である。


首席客演指揮者といっても、今シーズン振るのはこの10月の3つの定期だけだから、実際は看板だけといってよい。しかし、プレヴィンはもともと自分の主張をオケにぶつけるタイプではなく、オケの自主性に任せるタイプの指揮者だし、これだけの長老(80歳)であるから、プライドの高いN響ががぜん燃えるタイプの指揮者である。


今日のプログラム、冒頭にリーム(1952~)の厳粛な歌。現代音楽を苦手とするプレヴィンがこの曲を取り上げたのは、いささか不思議だったが、聴いてみて納得。とても聴きやすい音楽だ。シベリウスが発展したような音楽と言ったら語弊があるだろうか。低音を基調としたまさしく厳粛な音楽である。



続くカプリッチョ、ソプラノはクライバー最後の来日公演の際、「ばらの騎士」の元帥夫人を歌ったロット。私は残念ながらクライバーの公演には行ってないが、ウィーンでアラベラを観たことがある。彼女の醸し出す凛とした雰囲気は、まさに元帥夫人や、アラベラにふさわしいのであるが、今回のカプリッチョの伯爵令嬢マドレーヌもとてもよかった。もっとも私はこのオペラは観たことがなく、どのようなシーンかも全くわからないのであるが。11月に日生劇場で公演がある。

しかし、ここで驚いたのはN響の音である。久しぶりに聴いて、やはり日本のオケのなかでは一頭地を抜いていると思った。R・シュトラウスならではの精妙な響きをここまで見事に表現できるとは思わなかった。



後半の家庭交響曲も同様。今や足取りもおぼつかなくなったプレヴィンの指揮ぶりを見ていても、特段何か重要なことをしているように正直見えないのであるが、出てくる音楽は自然そのもの。この指揮者とR・シュトラウスの相性のよさ、N響との相性の良さを痛感させられる。ちなみにプレヴィンがウィーンフィルを指揮した一連のR・シュトラウス作品(テラーク、フィリップス、DG)はまさに傑作揃いだ。


しかし、プレヴィンは老けた。ここ数年の来日公演の際も痛感したが、今回はさらに老け込んだ印象だ。かつてジャズ・ピアニストとして名声を博し、ハリウッドの映画音楽を担当し、女優ミア・ファローと結婚し、そのうえでクラシック音楽界でも重鎮という大物も、指揮台を降りるのに楽員の手を借りるほどになってしまった。しかし、その音楽は未だみずみずしい。指揮者というのは年齢に関係ないという意味では、大変いい商売である。