本日、オーチャードホールで「トリスタンとイゾルデ」を観ました。私が、あらゆるオペラの中で最も好きな作品。なんと、3時開演、8時半終演でした。


ひとことで言って、すべてにおいて高水準の舞台でした!


まず、ビシュコフが振るこのオケの巧いこと!なんでも、通常2交替制のところ、日本公演のみ選抜メンバーだとか。特に木管の素晴らしさは特筆すべきでしょう。

ビシュコフの音楽づくりについていえば、昨年の来日公演で観たバレンボイム&ベルリン州立歌劇場で聞かれたような、地の底から咆哮する低音や、うねるような表現は一切ありません(個人的にはそっちのほうが断然好みですが)。むしろ、「えっ、こここんなにあっさり行っちゃうの?」というくらいそっけない部分がかなりありました。しかし、このオケの繊細な響きを十分活かしたそのようなアプローチも、従来聴いたことがない新鮮なもので好感が持てます。ビシュコフは最近日本に来ておらず、生では初めてでしたが、なかなかタクトさばきも見事でした。


次に、歌手陣がきわめて高水準でした。トリスタン(クリフトン・フォービス)、イゾルデ(ヴィオレッタ・ウルマーナ)+マルケ王(フランツ・ヨゼフ・ゼーリック)の主役3人はもちろん、クルヴェナール(ボアズ・ダニエル)、ブランゲーネ(エカテリーナ・グバノヴァ。ムーティ&東京オペラの森でヴェルレクを、昨年のザルツブルクの「エウゲニ・オネーギン」でオルガを歌った人だ)、牧童も舵取りもメロートもうまかったです。

フォービスのトリスタンは、フランツなんかに比べるとずいぶん知的で落ち着いた印象を受けました。しかし、ウルマーナのイゾルデが期待以上によかった!彼女はもともとMsからスタートしてますから、ヴァルトラウト・マイアー同様、中域の声もはっきりと聞き取れてとてもよいですね。


2幕のブランゲーネの警告のシーンは3階から、3幕冒頭の牧童の歌とコール・アングレは2階から演奏され、それなりの効果はありますが、ややバランスが悪いような気はしました。


さて、ピーター・セラーズの演出ですが、ビル・ヴィオラの映像を中心として、その手間にセミステージ程度の歌手の演技と舞台があるといったもの。映像は2人の男女、すなわちトリスタンとイゾルデをイメージした男女が登場し、ストーリーのイメージとシンクロしつつ、かといってかなり抽象的なものでした。最初にこの演出でこのオペラを観た人は、具体的シーンがイメージできず辛かったと思います。美しい映像で、音楽とセットでものすごく効果を上げる部分もあれば、いまいち本題からはずれてわけがわからなくなる部分もあり、というところです。