時計は午前10時を回ろうとしていた。
悪寒も大分落ち着いてきたように思う。
助産師に声をかけてもらい、
またこの後、院長が様子見に来ますからね。
と。
子宮口が少しずつ開いて来ているようだ。
お昼頃には産まれそうと。
いよいよみるくと本当にさようならが近づいている。
ここまで来て、寂しいとか悲しいとかそういう感情はもうなかった。
自分で決めた事。
お腹に手を当てて、みくるに話しかけた。
「みくる、大丈夫だからゆっくりお腹から出ておいでね。ママはみくるがまたすぐ来れる様に、準備して待ってるからね」
「みくる。ありがとう」
みくる、大好きだよ。
今度は一緒に歌ったり大きな声出したり
いっぱい遊ぼうね。
いろいろ話しかけた。
何度か院長や助産師が出入りして
時計は11:00
「痛くなったら教えてくださいね」
と何回か声をかけてもらった。
院長と助産師の出入りの頻度が高くなっていた。
本当にそろそろ産まれるんだなぁ。
【みくる、大丈夫だからね】
お腹に手を当て、みくるに話しかけた。
12:00になった。
「ご主人は何時頃来ますか?」と院長。
13:00頃来ると伝える。
子宮口が結構開いてきているようだった。
私は変に冷静だった。
無痛で居続けられるとは本当にすごいと思う。
子宮口をグリグリ?されて開き具合の確認をしているのだと思うけど痛くない。
きっと麻酔が効いてなかったら、悶絶の痛みなんだろうな。。。
痛くないけど、グリグリとされるその力強さに少し気持ちが痛かった。
抗生剤の副作用で排泄物の処理などもしてもらう事になるのは想像していなかったが、
無力な私は、委ねるしかなかった。
みんな、きっと通る道なのだろうか?
淡々となれた手つきで作業していた。
人に下のお世話をしてもらうなんて、まだまだ何十年後も先と思っていた。
そして、何十年後にはこんな感じで人様にお世話になるのか…
自分1人では本当に何も出来ないんだなぁ。
本当にこうやってお世話をやいてもらって申し訳なさとありがたさが込み上げてきた。
またみくるに話しかけた。
「みくる、大丈夫だからね。怖がらなくて大丈夫だからね。」
何度もありがとう。
ありがとう。
と伝えた。
そして時間の感覚さえ、もう分からない。
確認すると、
スマホの画面は12:58
主人が到着。LDRへ向かって来ている。
院長へ主人がこの部屋にもうすぐ来る事を伝える。
配慮していただいてたのか、出産する時は主人が居るタイミングでと待ってくれていた様だった。
ここまで、予定通りに進める医者は
居ないんじゃないだろうか?
主人が13:00到着。
顔をみて安心する。
主人は今、どんな気持ちなんだろう。
院長と助産師さんが入室し、いよいよ出産の時が来た。
私はみくるの意識がもうここにない気がして、天井を無心で見ていた。
また院長がグリグリと何かを手繰り寄せる。
私は何も感じない。
13:10 みくる出産
産声の無い、静かな出産となった。
みくるが出た感覚もなく、院長の「はい、産まれましたよ」の声で出産を確認した。
….虚無
という言葉がどう言うものか少し分かった気がする。
一瞬の無。
みくるは直ぐに、体重や体を拭いてもうべく
一度、私たちにちゃんと紹介される前に
一旦、別室へ運ばれてしまった。
多分、直後ではなく、キレイになった赤ちゃんで見せてあげたいという配慮もあったのだろう。
出産して直ぐ、へその緒を残してもらう事を伝え
止血の処置に入った。
ガーゼを子宮口へ入れて止血しながら麻酔が切れるまで2.3時間ひたすら安静待機との事だった。
主人に手を繋いで貰いながら、
お話しした。
何でも無い会話。
まずは無事に終わった事を喜び、みくるや主人に感謝した。
ありがとう。
お互いの昨晩から今の出来事などを話した。
小さな白い箱に入って、みくるが運ばれて来た。
「とっても可愛い男の子ですよ。」助産師さんがみくるを見せてくれた。
初めまして。みくる。
初めて、やっとみくるに会えた。
本当に愛おしくて、可愛かった。
みくるの全身のお肌はまだまだ赤みを帯びていた。
手が小さく、でも赤ちゃんにしては大きい手。
親指はややばち爪ちっく。
主人と同じ形の手。
パパと似てるなんて本当に可愛い!
ダウン症の彼はお鼻が少し低かった。
お顔は私に似て??整っていた気がする。
小さいクチビル。
小さい手。
小さい足。
小さいお顔。
小さいおちんちん。
低いお鼻。
全てが可愛い。愛おしい。
今、3ヶ月経った今、書き記していても
愛おしくて胸が苦しくなる程。
髪の毛もフサフサ。
抱きしめてたくなる。
主人とここが似てるなどの話で終始和やかだった。
私のお腹の中に、こんなに可愛い赤ちゃんが居たんだね。
本当にありがとう——-。
「お写真に残しておきますか?」
助産師さんが気を利かせてきっかけをくれたが
私たちは遠慮した。
自分たちの記憶の中にみくるをずっと覚えていようと思った。