第一歌集。三七七首と漢詩二首を概ね編年体に収めたという。一読して判るのは徹底した文語、旧かな、正字の作歌姿勢だ。比較的若い世代でここまで徹底している人を私は他に知らない。
かなり以前、心の花の兵庫歌会で知り合って初めてメールをもらったとき、「ありがたうございました」や「さういへば」等に大いに面食らったものだ。パソコンの変換も大変だろうし、歌会でも作者がすぐに判ってしまうし、でも一貫して頑なにこのスタイルを守っているところに敬服してしまう。
・フアールボール遠く伸びゆく。フルートに白きボールが映りて、消えぬ
・ホームランなれと高高蹴り上がるチアリーダーの大腿筋群
大学野球の一首。応援団の楽器に映ったボールや大腿筋…見立てと立ち位置の巧みな歌が多い。
職業詠にも現場のリアルを伝える個性が光る。
・三十九センチ規格の首に下がる紺ネクタイの縛りたる今日
・検査不良なる裸子山の缺(か)けたるを指につまみて半周回す
・錆か血か判らぬ手術器具に浮く汚れを磨く細かきやすり
初々しい相聞もある。
・ここがいいとベランダに立つ君の貌のもつとも曜(かか)やく部屋に決めけり
・我が襟に妻が香りぬ。同居とは洗劑同じくして服洗ふこと
・買はむとぞ手にとる歌集のどれもこれも書棚にありと妻に告げらる
作者もあとがきに明かしているが、妻は西村曜。歌人同士が結婚することの最大の利点かもしれない。
口語の軽妙な歌が幅を利かせ始めた昨今だが、同世代には真似のできないこうした異彩はこれからも放ちつづけてほしいものだ。
・病名の告知を受けし日の雨に濡れて乾かぬ黑き革靴
・百億の寢汗のにほひ立つ眞夏の横手盆地の夜明け
・亡き父の締めけむボルトをゆつくりと義弟とともに外す春の日
『殘照の港』
ながらみ書房
2024年1月4日発行
1700円(+税)
かなり以前、心の花の兵庫歌会で知り合って初めてメールをもらったとき、「ありがたうございました」や「さういへば」等に大いに面食らったものだ。パソコンの変換も大変だろうし、歌会でも作者がすぐに判ってしまうし、でも一貫して頑なにこのスタイルを守っているところに敬服してしまう。
・フアールボール遠く伸びゆく。フルートに白きボールが映りて、消えぬ
・ホームランなれと高高蹴り上がるチアリーダーの大腿筋群
大学野球の一首。応援団の楽器に映ったボールや大腿筋…見立てと立ち位置の巧みな歌が多い。
職業詠にも現場のリアルを伝える個性が光る。
・三十九センチ規格の首に下がる紺ネクタイの縛りたる今日
・検査不良なる裸子山の缺(か)けたるを指につまみて半周回す
・錆か血か判らぬ手術器具に浮く汚れを磨く細かきやすり
初々しい相聞もある。
・ここがいいとベランダに立つ君の貌のもつとも曜(かか)やく部屋に決めけり
・我が襟に妻が香りぬ。同居とは洗劑同じくして服洗ふこと
・買はむとぞ手にとる歌集のどれもこれも書棚にありと妻に告げらる
作者もあとがきに明かしているが、妻は西村曜。歌人同士が結婚することの最大の利点かもしれない。
口語の軽妙な歌が幅を利かせ始めた昨今だが、同世代には真似のできないこうした異彩はこれからも放ちつづけてほしいものだ。
・病名の告知を受けし日の雨に濡れて乾かぬ黑き革靴
・百億の寢汗のにほひ立つ眞夏の横手盆地の夜明け
・亡き父の締めけむボルトをゆつくりと義弟とともに外す春の日
『殘照の港』
ながらみ書房
2024年1月4日発行
1700円(+税)