あたしの父は、プレスされたYシャツを一日に3回着替えることも珍しくないお洒落さんだ.
和歌山県田辺市から東京に大学生として出て行った彼は、銀座のマリムラという洋服屋のお店でバイトをしていた.。恐らくその影響であろう、彼はいまだにそこで培っただろうスタイルを大事に生きている。
最近の彼のお気に入りのスタイルは、カラーシャツを用いたマフィア系である。
同じカラーシャツでも日本の外交官が申し合わせたようにブルーのシャツに白襟をつけたあのルックスとはすこし違う。どちらかというとイタリヤの極右首相がKITONでまとめているように、父は洋装屋の親父と結託してあれこれ服を作っては愉しんでいる。
田舎育ちだから社会のしがらみも少ない、自営業者として人生を謳歌できる立場にいる彼のその素直な姿勢はその服装に表れているのかもしれない.
そんな彼だから、新しくマンションを買ったときも彼なりのスタイルを作ろうとこだわった。
部屋の壁紙を剥がし、そこをを塗り壁にして、旅行に云った時に何故か大量購入した化石を埋め込んだ。
彼はこの結果を見て大変満足したのか、やったこともないプライヴェートパーティを催すことに決めた。
参加者は5名ほど、その中にはU原さんという、めちゃくちゃ綺麗な女性がいた.
彼女は、おそらく不自由なく育ち、何不自由のない生活をしているマダムであると推測させる.ほどエレガントである.当然パーティーも慣れたもので身のこなし、会話、何処を切り取っても文句ナシなのである。
ちなみにあたしの父は独身である.
いつも焼酎派に父だが、この日は少し高めの赤ワインなどを大丸で買ってきて、これまた頼んだことのないケータタリングサービスを呼んだ.いつもと違うことをした割に、お酒も美味しくご飯もメンバーに好評だった.
すっかりご機嫌になった父は、ここぞとばかりに自分の寝室にある、あるものを見せようとU原さんをこっそり呼び出した。
彼は自慢の壁を説明し、間接照明で薄暗い光の中にたたずむ壁に埋め込まれた化石を見せた.
彼女は、あら本当に素敵ねと云って誉めた.
彼はこの化石をあなたに上げようと思って、ベッドの横にあるサイドボードに取っておいたと伝えた.
あら嬉しいと答えた彼女に、父はサイドボードの引出しから取り出した白いティッシュにくるまれたものを差し出した.
差し出されたティッシュを受け取った彼女は、あらどんなのかしら?と云ったがその言葉の後、声を発しなくなった。
不審に思った父はその中身を、あらためたところ
そこには彼の入れ歯が入っていた。
赤い歯茎のついた奴である.
彼は黙って、あっ間違えたといい、今度はちゃんと化石を渡した.
彼女はありがとうと答え二人はみんなのいる部屋に何事もなかったかのように戻っていった.
父にとっては消しゴムで消したいような思い出だろうけど、あたしにとっては最高の笑い話である.
葬式の時のネタにとっておこうと思っていたが忘れる前に書いておく.
まことに人生はままならなもので、生きている人間は多かれ少なかれ喜劇的である。 といったのは三島由紀夫だが全くその通りだと思う.