皇室は国民から遠い存在だと思っていませんか? 

 しかし、皇居や皇室の御用地を見学することもできますし、中には国民が誰でも参加できる皇室の行事もあります。今回は、皇室を体験する方法を紹介します。

 皇居の正門に通じる二重橋はあまりに有名ですが、間近で見たことのない人もいることでしょう。いつでも近くで見ることができますので、まだ見たことのない人は行ってみることをお勧めします。皇居のシンボルとして親しまれている二重橋は気品が満ち溢れています。

 二重橋へは、東京メトロ千代田線の二重橋駅から歩いていくことができます。二重橋までの道のりもきっと楽しめることでしょう。白い玉砂利(たまじゃり)が敷き詰められた広大な皇居前広場は堂々たるものです。

 二重橋は二つの橋が重なって見えることからこのように呼ばれています。手前に見える石橋は正式には西丸大手橋と呼ばれています。この橋を渡った先に皇居正門があり、その先にもう一本、西丸下乗橋という鉄橋があります。そして、鉄橋を渡った先が宮殿です。

 二本の橋が重なっていることから、現在は二本の橋を二重橋と呼ぶ人が多いのですが、それは間違いで、実は奥にある西丸下乗橋が本来の二重橋です。昔、木造だったときに、二重の構造になっていたことから、奥の橋を「二重橋」と呼んだのが起源です。

 皇居正門は特別な門です。二重橋は普段は渡ることはできません。日本に着任した外国の大使が信任状の奉呈式に出席するときに正門が使われる他、外国からの国賓を迎えるときなどに使われます。

 二重橋は天皇陛下ですら普段お使いになることはありません。通常御出ましになるときは、皇居北側にある乾門をお使いになるので、天皇陛下が二重橋をお渡りになるのは、特別な場合に限られます。

 特別な場合とは、即位のときと崩御のときです。また、平成十年に天皇陛下御即位十周年を記念して、天皇皇后両陛下が二重橋まで御出ましになり、祝賀をお受けになったことがありました。

 しかし、この特別な橋を国民が誰でも渡ることができる日があります(外国人でも参加可能)。それは毎年1月2日の一般参賀と、毎年12月23日の天皇誕生日一般参賀です。新年一般参賀には毎年およそ6万人が、また天皇誕生日一般参賀には毎年およそ2万人が祝賀に皇居を訪れます。もちろん、参加費は無料です。

 一般参賀の日は、二重橋を渡り、皇居正門から宮殿東庭に進むことができます。そして時間になると宮殿長和殿のベランダに天皇皇后両陛下をはじめ、皇族方が御出ましになり、国民からの祝賀をお受けになります。

 天皇皇后両陛下と皇族方がベランダにお立ちになると、無数の日の丸の小旗が一斉に振られ、大きな歓声が沸き起こり、あちこちから「天皇陛下万歳!」の掛け声が上ります。そして天皇陛下から国民にお祝いのお言葉があります。

 一般祝賀の模様は毎年ニュースで放映されるので、その様子を知っている人は多いことでしょう。しかし、現場には現場にしかない空気があります。まだ一般参賀に参加したことがない人は、ぜひ一度参加してみてください。

 一般参賀の参加要領は宮内庁のホームページで発表されますので、参加したい人は事前に確認してください。

 ところで、一般参賀は年に2日間だけですが、皇居の東側およそ三分の一を締める皇居東御苑は通常火曜日から木曜日まで一般公開されています(特別の休業もありますので、お出かけになる方は事前に宮内庁ホームページで確認してください)。

 皇居東御苑は江戸城の本丸・二の丸・三の丸のあった場所で、面積は21万平方メートルに及びます。大手門・平川門・北桔橋門の各門から入苑することができ、また入苑料は無料です。

 御苑内には香淳皇后(昭和天皇后)の御還暦を記念して建てられた桃華楽堂(とうかがくどう)や、皇室に代々受け継がれた美術品類を収蔵した三の丸尚蔵館(さんのまる・しょうぞうかん)、そして宮内庁楽部庁舎、同書陵部庁舎などがあります。

 御苑では四季折々の自然が楽しめます。特に、書陵部庁舎から平川門に続く梅林坂の梅は有名で、梅の時期になると全国から見学者が訪れます。その他各種開花情報は宮内庁ホームページで随時公表されています。

 それ以外にも、事前に宮内庁に申し込みをすると、誰でも皇居参観が可能です。桔梗門(ききょうもん)から皇居に入り、宮内庁前から宮殿東庭を通って西丸下乗橋(二重橋)を渡り、そこで折り返して再び宮殿東庭に進み、宮殿北車寄(きたくるまよせ)を曲がって豊明殿の脇を通り、宮内庁の裏側から桔梗門に戻るおよそ1時間15分のコースです。ガイドが付き、料金は無料です。

 また、皇居以外にも、京都にある京都御所、仙洞御所、桂離宮、修学院離宮も事前に申し込むと参観することができます。京都御所は一般公開日もあり、その日は申し込みをしていなくても中に入ることができます。いずれも詳しくは宮内庁ホームページを参照してください。

 さて、これまで一般参賀と参観などについて説明してきましたが、国民が直接参加できる皇室行事があります。それは毎年1月15日に宮殿松の間で行われる歌会始の儀(うたかいはじめのぎ)です。

 歌会始は鎌倉時代中期、亀山天皇の代に行われた記録があり、その後断続的に続けられています。江戸期はほぼ毎年開催されて現在に至りますが、明治7年(1874)以降は一般からの詠進が認められることになり、はじめて国民が誰でも歌会始に参加できるようになりました。

 明治12年(1879)からは一般の詠進歌の中から、特に優れたものが披講(ひこう)されることになり、その後、新聞や官報でも発表されるようになりました。現在では歌会始の模様は毎年テレビにて放映されています。

 そして、近年は毎年3万首近くの歌が詠進されています。このことからも歌会始は国民が積極的に参加して行われている宮中行事であることがわかります。

 世界中に数ある文学の中で、和歌は最も洗練された、究極の文化ではないでしょうか。8世紀に書かれた『古事記』『日本書記』には既に和歌が掲載されていますが、現代を生きる我々が、およそ1300年前に生きた先人達の詠んだ和歌を詠み感動することができるというのは、奇跡に違いありません。それは日本語が現在に残っているから可能なことです。日本語が残っていることも奇跡です。

 そもそも1300年前、英語はありませんでした。欧米人が1300年前の先祖の文学を鑑賞しようと思ったら、古代ヘブライ語、古代ギリシャ語などを習熟しないと読むことができません。

 義務教育を終了した現代の日本人が、万葉集の防人の歌などを読んで理解できてしまうのは、実はすごいことなのです。

 和歌は1300年間、一つのルールに基づいて歌われ続け、幾多の人々によって積み上げられてきました。そして今も多くの国民によって和歌が詠まれ、毎年宮中で歌会始の儀が行われています。

 その他、国民が参加できる皇室行事といえば、雅楽演奏会が挙げられます。宮内庁楽部は毎年春と秋に雅楽演奏会を開催しています。国民も抽選に応募し、それに当たれば演奏会に行くことができます。雅楽演奏会には天皇皇后両陛下ならびに皇族方が御出ましになることもあります。もちろん参加費は無料です。

 雅楽も最も洗練された、究極の音楽ではないでしょうか。雅楽にはおよそ1600年の歴史があり、現在も皇室の元で守られ、育まれています。

 そして、忘れてはいけないのは「国民が参加できる皇室行事」というよりも、むしろ「国民が中心となって行う宮中行事」ともいえる、勤労奉仕です。

 昭和20年の空襲で焼失した宮殿の焼け跡を整理するため、同年12月に宮城県の有志が勤労奉仕を申し出たのがこの始まりです。その後も同様の申し出が絶えず、現在は皇居及び皇室の御用地で、ほぼ毎日、各種団体が、掃除、庭園作業などを行っています。

 ただ、勤労奉仕はこれまで紹介してきたものと違い、お客ではなく、主体として参加するものです。勤労奉仕に参加できるのは1団体15名から60名以内で、土日を除く、連続した4日間、つまり月曜から木曜か、もしくは火曜から金曜のいずれかの日程になります。詳しい参加要領は宮内庁ホームページに掲示されています。

 これまでいくつか皇室を体験する方法を紹介してきましたが、是非ひとつでも多くの行事に参加していただき、皇室を肌で感じていただければ幸いです。

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