滋賀県・琵琶湖の景勝地として名前が挙がることが多い「近江八景」は、いつ・だれが言い出したのかははっきりしていないらしい 近江八景が盛んに詩歌の題材にされたのは江戸時代で、絵の方では歌川広重をはじめとする多くの絵師が描いている 江戸時代の近江八景は戦後間もないころにはすでに「往年の風景が失われた」と言われるようになったが、ほとんど変わらないところもあれば代わりになるようなものを作り出しているところもある 歌川広重の『名所絵図・近江八景』と現在を対比し描いた

 

1.比良暮雪(ひらのぼせつ)

琵琶湖の西には比良山地が聳えており、この山地を背景に麓の村の雪景色を描いた風景画

 

 比良山地

琵琶湖大橋展望台から雪景色の比良山地を望む

 

2.堅田落雁(かたたのらくがん)

琵琶湖西岸に位置する堅田に満月寺の浮御堂があり、夕闇の中、比叡山方面の山に雁が飛んで行く情景を描いた風景画

 

 湖面に浮かぶ満月寺の浮御堂

湖上に突き出た浮御堂と背後の比叡山方面を望む

 

3.唐崎夜雨(からさきのやう)

琵琶湖の西岸にある唐崎神社の松に夜の雨が降り注ぐ様子を描いた風景画

 

 唐崎神社の霊松

唐崎神社の初代の松は天正元年(1573年)に大風によって倒れ、二代目は天正19年(1591年)に植えられたが大正10年(1921年)に枯れてしまい、三代目霊松として引き継がれている

 

4.三井晩鐘(みいのばんしょう)

通称三井寺と呼ばれる園城寺は最盛期には850もの堂舎があったと言われ9つの谷に分かれていた 鐘楼からの鐘の音が響く情景を描いた風景画

 

 三井寺の名鐘

現在観光などで見る境内は主に中院にあたり鐘楼もここにある 姿形の平等院の鐘、銘の見事さの神護寺の鐘と並んで鐘音の三井寺の鐘は「日本三名鐘」といった呼び方もする

 

5.矢橋帰帆(やばせのきはん)

矢橋は東海道五十三次の宿場町草津の外れにあった渡し場で大津との行き来をするのに舟を選ぶ人が多かったことから帆舟を描いた風景画

 

 矢橋の船着き場方面と三上山

現在は湖面が埋め立てられ矢橋帰帆島という人工島が造られているが、昔はそのあたりを舟が帆を立てて行き来していたものと思われる またその奥は船着き場があった辺りで公園になっており常夜灯が脇に設置されている

 

6.粟津晴嵐(あわづのせいらん)

琵琶湖の南西岸・粟津の湖岸には500~600の松が並んでいたと言われ、晴れた日に山風が吹き渡る情景を描いた風景画

 

 生き残っている粟津の松

現在は昔の松林から先が埋め立てられ湖岸は200mほど後退した 工場のある側が元の湖岸 道路はそのまま元の東海道で水際を通っていたらしい 歩道の街路樹として道路側に2本、垣根越しに1本と松の老木が残っている

 

7.瀬田夕照(せたのゆうしょう)

琵琶湖の出口となる瀬田川に架かる唐橋やその周辺も含めた風景を夕陽をバックに描いた風景画

 

 主要な交通路の唐橋

瀬田川は交通の要衝でJR東海道線、国道1号線、唐橋、JR東海道新幹線、名神高速道路とわずか1kmのところに5本の橋梁が架かっている 現在の唐橋は昭和54年(1979年)に造られたコンクリート製の橋である

 

8.石山秋月(いしやまのしゃうげつ)

石山寺の下を流れる瀬田川の奥に瀬田の唐橋らしき橋も描かれ、一番の季節と言える紅葉の時期の満月を描いた風景画

 

 石山寺の月見亭

石山寺は蜻蛉日記、更級日記、枕草子など文学作品にも登場し、源氏物語の作者紫式部は石山寺参篭の折に物語の着想を得たとする伝承がある 近江八景・石山秋月で描かれている月見亭で毎年中秋の名月の日に行われる秋月祭では多くの人々がここから名月を楽しんでいる

 

近江八景マップ