我が家の庭の柑橘にはアゲハの幼虫が
たくさんいて、運が良いと庭のどこかで
人知れず蛹になる。ただ、庭には寄生蜂や
蟻や小動物が沢山いて、殆どは成虫になれない。
ところが、たまに20m以上の距離を移動して玄関で
蛹になる子がいて、そういう個体は天敵にやられる
こともなく、無事成虫になれることが多い。
もっとも、それはそれでこちらが色々と気を遣って
大変なのだが、せっかく蛹にまでなったら何とか
無事に成虫になって飛び立って欲しいと思うので、
蛹を見つけると毎日注意して観察している。
2週間と2日前、そういう一つの蛹が羽化をした。
ちょっと小さめのクロアゲハだったが、なぜかこの子は
いつまでたっても飛び立たない。
無理に追って飛ばすと余り飛べなかった場合に酷い
ことになるので様子を見ていたが、結局その日は飛び
立たなかった。
ところが、翌日になってもこの子はまだここにいて、
そのままの状態で羽が折れている。
さすがにこれはおかしいだろうと思って触れてみると、
なんと足が蛹の抜け殻に引っかかっていて飛び立て
ないのだ。
羽は折れて、鱗粉もかなり落ちてしまっている。
それでも、引っ掛かりを外すとすぐに飛ぼうとしたの
だが、折れた羽が邪魔ですぐに墜落してしまう。
そしてそのまま風にあおられて、隣の家の風溜まりに
追いやられてしまった。
お隣は留守なので、なんとか棒をつなぎ合わせて
アゲハを棒に乗せようとしたら家の方に逃げて
きたのでなんとか確保。
とりあえず、引っかかって邪魔な羽を切って様子を
見ていたが、無風の状態で横になんとか飛べるぐらい。
砂糖水をあげて、飛び立とうとしないのを確認して、
家の中に入れ、蝶の飼い方を妻がぐぐる。
この辺の作業?はピコちゃんの時もそうだが、妻は
素早い。早速飼育箱を作ろうという事で、100円
ショップでもろもろの道具を買ってきて急ごしらえで
作ってみた。
餌は蜂蜜を薄めたりポカリスエットをあげたり。
2,3日持つのだろうかと心配していたが、
えさやりもうまくできて、意外と長生きしてくれ
そうな感じになった。
普段はほとんど動かないのだが、明るい時は
不意に動き出して、そういう時に綿棒にしみ
こませた蜜を上げると、何回かに一度、
足で触ってから飲んでくれる。とても気まぐれなので
結構しんどい作業。
人間から見れば寂しそうに見えるが、無風で天敵の
いない場所などないので、放すこともできず、
我慢してくれよと一生懸命育てていた。
羽は少しづつ欠け始めているが、いちおう元気に
毎日を過ごしていた。
数日前から卵を産み始め、メスだとわかったが、オスを
捕まえてくるのも可哀そうだし、それはそれで飼育の
無限ループになってしまうので諦めるしかないねえ、と
言っていた矢先、今日、突然死んでしまった。
病気かもしれないし、寿命かもしれないし、おなかに
卵が一杯詰まっていたので、卵詰まりかもしれない。
2週間と2日というのは、自然界の厳しさを考えると
そんなに短くもないかもしれないね、と自分達を
慰めて、自分が育ったであろうミカンの木の下に
埋めてきた。
今年は殺虫剤を極力使わないようにしているので、
いろいろな昆虫や小動物が庭にたくさんいる。
たった2週間でも、空を飛べなくても、卵を産めなくても、
助けた事、その一生に意味があったのかどうかは
誰にもわからない。
ただ思うのは、せめて一度、大空を飛ばせて
あげたかった。たとえそれが単なる自己満足でも。
だけど出来なかった。一度も空を羽ばたくことなく
籠の中で死なせてしまった。ごめんよ。