霊感のある人が乗ってはいけない電車
仕事仲間の編集デザイナーK介君は霊感がある。本人はそれを自覚しているが、ビビリなので霊的なものには携わらないように意識している。どこかへ出かけても、いやな雰囲気を感じたら中止するか遠回りするほどだった。
そんな彼が、いつも通勤で利用する電車の中で、時々重苦しい空気に包まれることがあるという。二日酔いや体調不良でもないし、いつも至って健康だ。にもかかわらず、乗車してしばらくするとそういう症状に襲われるのだという。毎回ではなく、いつそんな症状に襲われるのか予測がつかないらしい。
その話を聞いた仲間たちは「K介に恨みを抱いている奴が念を飛ばしてるんじゃないか?」「近くに波長の悪い奴がいて同調して影響を受けているんじゃないか?」「おまえを思ってる女に生霊を飛ばされているのでは?」と、冗談交じりに予想していた。K介君が霊感の持ち主で、しかもビビリなのを知っているためわざと怖がらせていたのだ。
だが、心霊関連の仕事に長く携わっていた私としては、仲間たちの予想があながち外れているとは思えなかった。そこでK介君に、いつ、どこで、どういう状況で起こるのかを詳しく聞いてみた。
「通勤時に乗る電車は、いつも同じ時刻で、だいたい先頭車両に乗ってます。これは5年間変わっていません。気分の悪さを感じるようになったのはここ数カ月です。それまではなんともなかったのに」
毎日同じ電車ということは、誰かの邪念を受けている可能性は否定できなかった。通勤客はたいてい同じ車両に乗るので、K介君が見知らぬ誰かに顔を覚えられていることもあり得るからだ。しかし、確証はない。
そんなある日のことだった。いつもの電車で通勤中にK介君は車内でうたた寝をしていた。そのとき夢を見たという。
「手首だけがユラユラと動いていたんです。目の前でずっと……。それだけの内容だったんですが、いつも以上に気持ち悪さが倍増してあぶら汗をかいてしまいました」
同乗者による邪念だけではないのか? ますますもって原因がわからない。
ところが思わぬところで解決の糸口が見つかった。
当時私は解剖学の権威である元監察医の上野正彦先生と書籍の仕事をしていて頻繁に会っていた。その取材の過程で電車による轢死について話を聞いていたときだった。先生は言う……
「電車に撥ねられた死体はバラバラになって四方八方に散乱する。それをポリバケツを持って一つ一つ肉片を集めていくんだけど、ある事故の被害者の手首だけがどうしても見つからなかったんです。こういうことはよくあるんだけどね。
結局それが発見されたのは数カ月後で、しかも発見場所は先頭車両の下部にある車輪の近く。点検整備をしていた作業員が、車輪の近くで挟まっている手首を偶然発見したんです」
この話を聞いてピンときた。遺体の一部が見つからないときがあり、それが車体に挟まったままだったという実例から、K介君の電車もそれと同じ状況なのではないかと。
実際に利用している路線は人身事故が多い。K介君が霊障に襲われる直前も飛び込み自殺があった。そのときの被害者の手首が車体のどこかに挟まったまま運転されているのではないだろうか。
人を撥ねるのは先頭車両であり、K介君が乗車するのは先頭車両。見つけてもらえない手首が念を持ってしまい、車体の下から、霊感のあるK介君に「ここにあるよ」とメッセージを送っていたのかもしれない。あるいはK介君が自然に念を受けていたのかもしれない。
これが手首でなく、目玉だったら、K介君の夢には目玉が出てきたのだろうか……。
この話をしてから、K介君は車両を真ん中にするようになった。すると気持ち悪さはピタッと止まったとのこと。これが本当だとすると、まさに手首電車に乗っていたことになる。
人身事故のない電車などはない。となれば、誰だって事故車両に乗り合わせる可能性はある。もし、車体に未練のある肉片がこびりついていたのなら、あなたも呪われた車両に乗っていることになる。
自分の足元に死者の肉片があるなんて……考えるだけでも怖い。
≪お知らせ≫
過去の『霊感女性が体験した怖い話』と『心霊ライターが取材した霊の話』がYouTube動画で観られます。時間のある方は是非!