18~20代:
【予知夢におびえる日々】
高校を卒業して働き始めた直後のことです。銀座のデパートにショッピングへ出掛け、ペットショップを通りかかった時に、一羽のオカメインコが目に留まりました。鳥かごの中で遊んでいたオカメインコはとても可愛く、私は完全にひとめぼれ。
店長から「手に乗せられるよ」と言われ、指や腕に乗せたりしているうちに、その子が欲しくてたまらなくなりました。そして、一番小さな子どものオカメインコを私の初めてのお給料で飼うことにしたのです。名前はメイちゃんとしました
。
家ではすでにセキセイインコのピーちゃんを飼っていました。家族のようにずっと大事にしていて、もう7~8年くらい可愛がっています。セキセイインコの寿命は8年くらいと言われているので、もうおばあちゃんインコです。
そこへ新しい友だちが仲間入りです。ながく一羽だけで過ごしてきたので、メイちゃんが来たらどうなるんだろうと思い、それぞれの鳥かごを隣り合わせに置いてみました。
ピーちゃんはとても喜んで歓迎しているように思えました。でも、メイちゃんは冠羽を立てて威嚇し、今にもつつきそうな勢い。ピーちゃんは大人の余裕があったのですが、子どものメイちゃんには脅威に映ったのでしょうか。
そういう状態だったので、二羽の鳥かごは離して置くことにしました。
それから数ヶ月経った時のことです。ピーちゃんが亡くなった夢を見たのです。
大事な家族を失ったような感じでとても嫌な目覚めでした。でも、現実のピーちゃんは元気そのもの。朝から可愛い鳴き声を聞かせてくれていてホッとしました。
「こんなに元気なんだもん。まだまだ長生きするよね」
ところがその3日後、ピーちゃんは突然息を引き取りました。朝は元気だったのに、会社から帰宅すると、鳥かごの中で冷たくなっていたのです。あふれ出る涙が止まりませんでした。
ピーちゃんが亡くなった夢は予知夢だったのでしょうか? でも、8年近く飼っていたから寿命だったのかもしれません。
「ピーちゃん、ありがとう」
私はそっと手を合わせました。
飼い鳥はオカメインコのメイちゃんだけになってしまいました。あんなに子どもらしく動き回っていたのが、寂しくなったのか急に動きが緩慢になり、心なしか鳴き声のトーンも落ちているように思えます。でも、私が帰宅すると「ピッピッ」と声をあげて大喜びします。やっぱり部屋の中でひとりぼっちなのが寂しかったのでしょう。
「もっとメイちゃんにかまってあげなきゃ。ピーちゃんのぶんまで遊んであげなきゃ」
改めてそう思いました。
何年か経ち子どもから大人へとなってきたメイちゃん。その頃には最初の「ピッピッ」という小さな鳴き声から、「ピーピー」という大きな声になっていました。可愛がる気持ちに変化はなかったのですが、ゆっくり寝たい休日の朝などに「ピーピー」という声で起こされると、正直なところ「うるさい」と感じるようにもなっていました。
そして、私自身に彼氏ができ、毎晩デートで帰りが遅くなると、帰宅後すぐに寝てしまい、休日も朝から出かけてしまうことも。そのためメイちゃんにかまってあげることが益々なくなっていったのです。
そして、メイちゃんが我が家に来てから8年目のことでした。メイちゃんが亡くなった夢を見たのです……。
ピーちゃんは夢を見てから3日目に亡くなりました。私はその時のことを思い出し、怖くて怖くて仕方ありませんでした。メイちゃんもいなくなってしまうのではないかと。
その日は1日中不安で仕事が全然手につかず、会社を早退しました。彼氏とのディナーの約束もキャンセルして。
急いで家に帰るとすぐにメイちゃんの元へ。
「ピーピー」
嬉しそうに私を迎えてくれたメイちゃん。元気で良かったと思わず胸をなでおろしました。
翌日、有給休暇を取って会社を休みました。メイちゃんと一緒に居たかったからです。
「今まで寂しい思いをさせてごめんね。これからもずっと一緒だからね」
鳥かごから出し、その日は部屋の中で自由にさせてあげました。私も部屋の中に閉じこもり、食事をする時もずっとメイちゃんと過ごしました。頭を撫で、耳のあたりを撫で、頬をすり寄せながら、今までになかったほどのスキンシップをして。メイちゃんも嬉しそうに私の頭や肩に乗り甘えているようでした。
考えてみれば、ここ数年このように一緒に遊んだことがありませんでした。その空白の期間を取り戻すかのように、私の周りで遊びまくるメイちゃん。改めてメイちゃんの愛らしさを実感しました。メイちゃんも喜んでくれたように思えます。そして、もっともっと大事にすると誓ったのです。
3日目の朝、メイちゃんの様子に変わりがなかったので、そのまま会社に出かけました。その日も彼氏とのデートはキャンセル。少しでも早く帰ってメイちゃんと触れあいたかったからです。
ところが、帰宅してもメイちゃんの声が聞こえません。いつもならドアの開く音で私の帰りを察し「ピーピー」と鳴く声が部屋から漏れてくるのに。嫌な予感がして急いでメイちゃんの様子を見に行くと……
「!」
メイちゃんは餌箱に乗って下を向いていました。ちょうど餌を食べていたため鳴かなかったのでしょう。
「良かった。取り越し苦労で。メ~イちゃん、ただいま」
そう言って鳥かごの扉を開けた時でした。
パタッ……
メイちゃんが倒れたのです。
「え……?」
急いで鳥かごから出したのですが、目を閉じて、くちばしを少し開けたままぴくりともしません。すでに息絶えていました。朝はあんなに元気だったのに……。
「なんで、なんで! これからはもっと一緒にいようと言ったじゃない!」
メイちゃんの亡骸を手にして泣き崩れました。
メイちゃんが亡くなったことはショックでしたが、もっとショックを受けたのはピーちゃん同様に夢を見た3日目に亡くなったことでした。再び予知夢が現実になったからです。
オカメインコの寿命は10~15年と言われています。ピーちゃんはたまたま寿命だったと思えましたが、メイちゃんの場合は早すぎです。あまりにも短すぎ!
ということは、私の予知夢は死を予言するということ?
私の夢に出てきた人やペットは死んでしまうということ?
死を予知する夢なんて怖すぎです。もし、私にそんな力があるのだとしたら、こんな怖いことはありません。もし両親の夢を見たら……もし親友の夢を見たら……もし彼氏の夢を見たら……。それを考えると怖くてたまりません。
だとしたら、メイちゃんを殺してしまったのは私ということになるの?
「いや~!」
半狂乱になりました。
次の日から眠るのが怖くなりました。夢を見たくないからです。「誰かが死んでしまう」「誰かを殺してしまうのでは」……そんなことを考えるうちに不眠症になってしまい、病院から睡眠導入剤を処方してもらうことに……。
そして、毎日毎日メイちゃんに詫びました。私が夢を見たばかりに殺してしまったことを。罪にさいなまれる日々が続き、ついには軽いうつ症状を起こしてしまいました。そのせいでネガティブな性格になり被害妄想になり、彼氏とも別れることに……。
そんな絶望の日々と眠ることの恐怖が続いていたある日のことです。初めてメイちゃんと出会った店に行き、店長とお話しする機会がありました。店長も私と同じ霊感体質だと聞いていたので、予知夢についての話を理解してくれると思ったのです。
店長は私にこう話してくれました。
「あの子は美由紀ちゃんのことを恨んでいないし、むしろ感謝してると思うよ。最期の日はいっぱい遊んであげたんでしょ。メイちゃんは自分の死期がわかっていて、最期に美由紀ちゃんと一緒にいたくて夢に出てきたんだよ。猫は死ぬ直前に飼い主の前から姿を消すと言うでしょ。メイちゃんも自分の死を自覚してたのかもしれないね。だから、大好きな人の夢に出てきて、最期に遊んで欲しいと願ったんだよ。そして、君はその願いを叶えてあげた。ちゃんと夢のメッセージに応えてあげた。メイちゃんは満足して天国に行ったはずだよ」
涙が止まりませんでした。私の予知夢はそういう意味だったのですね。
私が夢を見てしまったことで、メイちゃんの死を早めたわけではありませんでした。
小鳥といえども、家族同様に8年も一緒に暮らしていれば心は通うもの。私が一時期プライベートにかまけても、メイちゃんはずっと私のことを思ってくれていたのでしょう。だから、最期くらいは一緒に居てねと、夢の中でメッセージをくれたに違いありません。
「メイちゃん、ごめんね。そして、ありがとう」
今、メイちゃんは隅田川の木のほとりに眠っています。大人になるにつれ、だんだんかまってあげられずに寂しい思いをさせてしまったことを謝りつつ、毎日静かに手を合わせています。