詐欺被害が何年経ってもなくならない。騙されたことのない人には、なぜ騙されるのかが分からない。「振り込め詐欺」に関してはしつこいほどテレビで報道されているし、ネットによる詐欺も同様だ。
実際、自分にも詐欺のお誘いがよく来る。日中にかかってくる固定電話に出ると、こちらの声を聞いただけですぐに切られてしまう。高齢者の声でないと分かるからだ。つまり、「振り込め詐欺」だったということだ。
メールでは一時期アイドルを名乗る相手から交際申し込みのメールが来ていた。有り得るわけないのは一目瞭然だ。普通の人ならすぐ分かる。そう、普通の人ならだ。詐欺グループはそんな普通の圏外にある人を狙っている。メールを送ったり電話をかけたりするのは適当でも、どのような人がカモになりやすいのかを分かっているのだ。
実際にカモにされている人を取材したことがある。A氏は50歳になろうかという独身男。母親と二人暮らしで定職に就いていない。中学卒業以来ずっとフリーターとして生きており、親に頼ったまま50年を過ごしてきた。
性格は人懐っこく、人を疑わない素直な性格。人の話を聞くよりは一方的に喋るタイプ。物怖じしない性格で、どこにでも乗り込んでいける度胸がある。お人好しで同情しやすい。電話魔でもあり、ある意味営業マンに向いていそうなタイプ。
確かに友達は多いが、好かれてはいない感じだ。悪い人でなく、むしろ正義感の強い善人の部類に入る。勉強はできないが記憶力はいい。母思いでもある。
優しい言い方をすれば変わり者。はっきり言えば、悪い人ではないが鬱陶しがられている。ここまで言うと、ほぼほぼ良い人のように思える。
だが実はA氏、発達障害なのである。本人にはその自覚がなく、老いた母親も未だにそのことに気づいていない。おそらく小学生の時からそのような兆候は現れていたのだろうが、当時はまだ発達障害という問題が公になっていなかったからだ。そうこうしているうちに50年経ってしまっていたのである。
先述の内容とは違い欠点を挙げてみると…一般常識に欠け、空気が読めず、人の気持ちを考えず、嫌われていても気づかない、むしろ自分が嫌われるとは思っていない、力仕事のバイトはするものの定職に就かず、一般的なニュースには関心がなく、あるのは野球と芸能関係だけ、雑誌も新聞も読まない、パソコンはできないしスマホも持たない、恋愛もせず、童貞のまま、親の金だけでただ生きてきたのである。
度胸があって怖いもの知らずという点は長所ではあるだろうが、常識知らずだとトラブルも起こす。私が知っていることの一つでは東京ドームで出禁を喰らっている。何かをやらかしたらしい。善人なのだが社会不適合者であることは否めない。
今やまさに典型的な「8050問題」の予備軍となっている。社会問題化した「8050問題」は各地で様々な殺人事件や遺体遺棄事件等を起こしている。かつて介護していた母親が亡くなった時に主治医を逆恨みして銃殺したという事件があったが、彼もそうなりかねないと危惧している。すでに父親は他界し、遺族年金だけで生活している現在、母親が亡くなった後にどうなるのか…考えただけで恐ろしい。行政はそういうところにも目を配り対処すべきだ。何らかの事件が起きる前に。
そのA氏、今は「アイドル詐欺」にかかっている。
1年前、数年ぶりに電話をもらい、何かと思ったら、「僕にもやっと恋人ができましたよ。しかも現役アイドルなので週刊誌に載るかも知れませんよ」と言うのである。そして、「昔お世話になったので、あなたにスクープとして提供してあげようと思って電話したんですよ」と恩着せがましく言ってきた。
直ぐに騙されていることが分かった。話を聞くと、本人は1年半前からやたらモテるようになったという。複数の女から電話が来るようになり、やたら付き合いたいというラブコールが殺到したとのこと。どこからかA氏の個人情報が漏れたのだろう。
恋愛経験のないA氏は有頂天。その中から選んだのは大阪で活動しているアイドルH子だった。芸能人がわざわざ自分を選んでくれたということが嬉しくて、すぐに応えたとのこと。一般ニュースを目にしないA氏には、それが詐欺だとは理解できていない。
「彼女はどうしても僕に会いたいと言うんです」…信じ込んでいる。
「それは詐欺だからやめるべきです。偽物だって!」…私がいくら説得しても聞かない。
「本物ですって。電話で話したらちゃんと関西弁を喋ってましたよ」…偽の関西弁なんか誰でも喋れるのに。
「なんで信じてくれないんですか!」…A氏は聞く耳を持とうとしない。
言っても聞かないA氏に頭にきて、「勝手にすれば!」と電話を切ってしまった。
それから半年後、電話がかかってきた。初めはたわいもない会話だったが、突然H子について語り始めた。
「実はまだH子と会えてないんですよ。東京まで行く交通費がないとかで、お金を振り込み続けているんですけどね」…まだ、断ち切っておらず、騙され続けていたとは。半年間、なんだかんだと理由をつけては会おうとせず、何かにつけてお金を要求されているという。まさしく「国際ロマンス詐欺」の手口そのもの。
振り込んだ金額はA氏のバイト代だけではどうにもなるはずがなく、おそらく母親の年金に手を付けているのだろう。こうなると呆れたなどと言っている場合ではない。警察に被害届を出すように言っても、「間違っていたら彼女を傷つけることになるからできない」という始末。
そこで初めて分かった。詐欺にかかる人たちとは、こういう人たちなのだと。そして、詐欺グループはこういう人たちの存在を知っていて、そこにターゲットを絞って犯罪を繰り返しているのだと。今もなお、このように警察に相談することもなく騙され続けている人がいるのだ。大人になって気づいた発達障害はもうどうにもならない。特に自覚のない人は。結局、カモにされ続けるしかない。だから、詐欺被害がなくならない。
警察や行政は「詐欺に気をつけましょう」と告知をしているが、一般の人に言っても意味がないのだ。自分が発達障害だと自覚していない人にこそ伝えなければ被害は一向になくならない。騙されているのはそのような人たちなのだから。私もA氏の存在を知らず、このような目に遭っていることを知らなければ、どのような人が詐欺被害に遭うのかを知らずにいた。
犯人はどのような手口で上手く騙しているのだろうと、その話術を知りたがっている“普通の人”が多い。違うのだ。奴らが上手いのではない。かと言って被害者が無能なわけでも絶対ない。
「振り込め詐欺」に遭う高齢者も同じだ。元々人を疑えないお人好しの善人が、加齢により思考力や判断力の低下によって弱まったところを狙われたのだ。
欺される人を馬鹿にしたり呆れたりしてはいけない。欺される人の環境や病的状態にも考慮すべきである。
周囲において、世間から取り残された高齢者や発達障害とおぼしき人物が近くにいた場合、我々も注意して見守ってやる必要がある。
[編集後記]
風俗嬢にたらしこまれるパターンもある。普通の人でもたらしこまれるくらいだから、そうでない人はなおさら…。