昔のテレビの再放送を見ていると、差別表現について必ずお断りが出てくる。
「現在では不適切な表現があるが、作品を尊重して当時の映像をそのまま流す」と。「キチガイ」は必ず無音になるが、軽微なものはそのまま流れることもある。それは局によって判断や対応が違うからだ。
例えば、前回述べた「貧乏長屋」だが、『妖怪人間ベム』では無音だったのに、NHKの落語ではそのまま使われていた。落語が文化芸術という扱いだからだ。もし『妖怪人間ベム』を観ずに、NHKの落語だけを観ていたら、「貧乏長屋」が差別表現だなんてずっと知らなかったことだろう。
再放送で『シティーハンター』を観ていた時のことだ。珍しく冒頭にお断りが出てきた。今までずっと観てきて一度もなかったのに、初めてその回だけ出てきたのである。珍しかったので、どこに差別があるのかをじっくり探しながら観ていた。
だが、一度もそれらしき言葉に該当するものが思い当たらなかった。無音がなかったので、そのまま流されたのだろうが、いくら考えても分からなかった。
そこで、若い後輩と一緒に録画したものを改めて観ることに……。すると、若造君はあっさりと「エスキモーじゃないすか」と言った。
調べてみると確かにそうだった。1970年代にカナダが差別用語としたことから全世界に拡散していったらしい。恥ずかしながら全く知らなかった。これじゃあ校閲の仕事なんかやれやしない。
同世代の同業者にこのことを話したところ、「プロとしては恥だが、仕方ないかもしれない」と同情された。仕方ないというのは、私らの世代は子供の頃から『エスキモーアイス』を食べてきたからだ。アイスクリームを入れるショーケースや自販機にも『エスキモーアイスクリーム』と堂々と表示されていたので、それが脳裏に焼き付いていたのである。若造君はそれを知らない世代だから、すぐに「エスキモー」が差別用語ではないかと思ったのだ。
ちなみに、シベリアとアラスカでは「エスキモー」は公的用語になっているという。ここんところ表現の在り方が難しくなってきてやりにくい……。
[編集後記]
「貧乏長屋」がダメなら「貧困長屋」ならいいのか? そもそも現代に長屋はないしなぁ。今はテラスハウスと言うらしいし。だったら「貧困テラスハウス」ならいいのかぁ。