前回の続き
化粧品メーカーA社の商品を使用している全国のエステサロンや美容院を取材していると、繁盛している店と頭打ちになっている店とで明暗が分かれていた。
繁盛店に話を聞くと「なるほど」と思えるほどオーナーや従業員が工夫を凝らしていた。頭打ちの店はA社の商品さえ使っていれば良いという意識で後は何もしていない。何かしていたとしても工夫が足りない。特にオーナーが一人でやっている店舗がそうだった。
何とかそのような店の力になりたい。そこで、全国を回るついでに、繁盛している店のアイデアを頭打ちの店にヒントとして与え、さらに私自身が気付いた店の欠点をアドバイスし改良することで、少しずつだが効果が出始めていた。
私はプロのコンサルタントではないので、経営全般に関してはその筋のプロに任せるとして、私はユーザーの目線で気づいた小さなことをアドバイスしてみた。そのため劇的な効果は望めないが、何もしないよりはマシだろうと思っている。ちょっとした発想の転換で物事は少しでも進展するからだ。
そこで、繫盛店の成功事例と頭打ちの店で改善してみた例を参考までに紹介してみたいと思う。
〖個人店舗改善編〗
【店頭のパンフレットを有効に活用にする】
エステサロンA店を訪れた時のこと、ドア横のティーテーブルにパンフレットが無造作に積み重ねられており、『ご自由にお持ちください』という手書きのポップが立てられていた。
そのパンフレットは私が作り、メーカーからA店に送られていた物。それだけに思い入れがあるため、こんな安っぽい置き方をされているのが残念であり、これでは誰も持って行かないなと思った。
そこで、店に入る前の1時間、通行人が現状のパンフレットの置き方にどのような反応を示すのかをリサーチしてみた。その結果、チラッと見る人はチラホラいたが、手に取る人は皆無だった。
当然だ。表紙だけを見せた平積み状態では、そもそも見る気も起きない。編集した私にはパンフレットの中身に自信があった。キャッチコピーを目の引くものにしたり、読めば商品の魅力に引き込むだけの内容であると確信していた。レイアウトもデザイナーが工夫をしてくれていた。しかし、平積みのままでは何も伝わらない。
そこで私は勝手にちょこっといじることにした。一冊を内容が分かるように開いて平積みにされたパンフレットの横に置いたのだ。特に魅力的なページを選んで。表紙を見せるだけでなく、そこに何が書かれているのかを分からせれば、人の興味を引くことができるからである。
案の定、店での打合せを終えて1時間後に外へ出た時、パンフレットが数冊減っていた。
いったん店に戻り、オーナーにこの話をして、急いで新しいポップを作ってもらった。その後、1時間近く店外でリサーチしたところ、パンフレットを見る人が格段と増え、手にする人も多くいた。
ポップは『ご自由にお持ちください』をやめて、新しく『美肌の秘訣がここにあります↓』に変えてもらった。たったこれだけのことで効果があるのだ。
オーナーの中には、メーカーから無料に配布された物を軽視する人がいる。商品自体を重視していることもあるが、従来の化粧品パンフレットは見た目のデザインに重きを置いており訴求力が弱いと思っているからだ。
しかし、中身をよく見ればいくらでも有効活用できるのである。
店頭のパンフレットに力を入れていないA店は、店内も同じ有様だった。やはり、平積みにされているだけの状態。そこで、商品の横に読ませたいページを開いた状態で置き、商品の魅力を簡単に書いた手作りポップを飾ってみてはどうかとアドバイスした。大したことではないが、パンフレットが少しは有効活用されるはずだ。
【お客の目線に立った小さな小さなひと工夫】
エステサロンB店の店内では、施術席の鏡の前にミニパンフレットや商品の手作りポップが置かれていた。これはどこででもやっていることではあるが、オーナーはそこにちょっとした工夫を凝らしていた。
お客の背後に商品やポスターや手作りポスターを置き、お客が見る鏡に映るようにしていたのである。施術中にも商品に関心を持たせるようにし、店内の隅々を活用した小さなアイデアであり見事なアイデアであった。
しかも、見せたい商品をたびたび変え、手作りポスターの内容も頻繁に変えていた。お客を飽きさせないようにし、常にお客の目線に立ったオーナーならではの手法だった。
【ディスプレイを芸術的に見せる簡単な裏技】
エステサロンC店はドア横に出窓があり、そこに商品をディスプレイしていた。同じ商品を数十個並べている様はなかなか壮観だった。そこで私は一工夫加えるアイデアを提案した。それはシンメトリーの利用だ。
シンメトリーとは対称性のこといい、物を魅力的に見せる効果がある。商品を展示する時、普通は棚の上に置くだけにしてある。1個だけならそれでもいいが、同じ商品を大量に陳列する場合は、棚に鏡を置いて、その上に商品を置くと上下対象のシンメトリーを作り出すことができる。壮観なうえにとても綺麗に見え、さらに上からLEDライトで明るくすれば商品はさらに映えるというものだ。
ディスプレイはたいそうに凝らなくても、ちょっとしたアレンジで芸術的に見せることもできるのである。この方法、ぜひお試しあれ。
【見慣れた風景を大胆に変えてみる】
いつまで経っても店内の飾り付けが同じままの美容室D店があった。お客の目を引くには数か月に一度はレイアウトを変えるなり、飾りつけを新しいものに取り換えるなどをした方が良い。
しかし、ここのオーナーは自身の腕前と商品の良さを重視していたため、店はただの箱であり作業場としか捉えていなかった。それでも顧客が途絶えないのなら構わないのだろうが、見慣れた店内では新鮮さがなくなるので、時にはお客に刺激を与えることも必要だ。
これは店外ポスターにも言えること。年中同じポスター等を貼っていないだろうか? そうすると、道行く人にとっては見慣れた街の風景の一コマに溶け込んでしまい関心を持ってもらえない。
エステサロンE店ではA2サイズのポスターを長期間貼っていたのだが、奮発してB0サイズの巨大タペストリーを作成し店頭に飾った。すると、多くの人が目に留めるようになったという。時にはそれを目印に待ち合わせに使う人も出てきた。店頭に置いてあったチラシも、通常より持って行かれるようになったということから宣伝効果はあったと思われる。
小さな個人店舗が目立つには、大胆なアクションを起こすことも必要とされる。
【意味のないチラシ配りは必要ない】
店頭でのチラシ配りは街中でよく見られる光景のひとつ。しかし、スタッフが一人でぽつんと配り続けていても効果はなく無駄なだけ。通行人も見慣れてしまい素通りすることも…。
エステサロンF店ではその状況を打開すべく若い三人の女性スタッフが立ち上がった。お昼の11時半~13時半にかけて、店の前でデモンストレーションを行ったのである。一人は椅子の上に立って手書きの看板を掲げ声を上げ、一人はローションや美顔器で実演を行い、一人はチラシやサンプルを配布した。一人だと黙々と渡してしまうチラシ配りも、側に同僚がいると元気のいい声で渡すことができていた。そのためチラシを受け取ってくれる人や話を聞いてくれる人も現れた。
時間をお昼に限定したことも効果があった。今までは店が暇な時に手の空いたスタッフが外へ出ていたが、通行人の多い昼休みの時間帯だけをピンポイントに狙い行ったのである。
この変革をもたらしたのは顧客のひと言だった。ある冬の日に「この寒空に一人黙々とチラシを配っていても貧相に感じる」と店長に言ったのである。確かにその通りだ。寒い冬は身体が縮こまるので特にそう見える。ひいきにしてくれているお客ならではの遠慮のないひと言だった。
そして、これに発奮してデモンストレーションを行ったスタッフも見事だったといえる。スタッフがただの給料稼ぎではなく、店のためを思い、仲間同士で一致協力する気構えがあってこそ成しえたことである。
そうなるように仕向けるオーナーの社員教育も必要だ。ただ技術さえ向上すればいいってものではないのだ。
[編集後記]
細かいことはまだまだたくさんあるんだけどね。