知り合いの保育士に聞いた話。
女子高生が仕事体験か何かで保育園にやって来た時のこと。その子が顔に汚れが付いてしまったと言うので、保育士が側にあった濡れティッシュを渡した。するとその子は「やだー! これお尻用じゃないですかぁ!」と嫌な顔をしたというのだ。
確かにそれは『赤ちゃん用のお尻ふき濡れティッシュ』だった。
だが、待て。赤ちゃんのお尻ってデリケートだし、衛生面で非常に気を遣うもの。だったら顔を拭いても問題はないはずだし、街中で広告宣伝用に配布される安価な物より質が高いってことじゃないのか。
女子高生は『お尻』って単語だけを強調して捉えてしまい、「汚いもの」というイメージを持ってしまったのだ。
これがもし『赤ちゃんのお尻ふきにも使える濡れティッシュ』という商品名だったら何とも思わないし、むしろ安心するはず。実際、化粧品メーカーは顔に使う商品にもそのようなキャッチを用いて、安心安全をアピールしている。
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広島大学の教授が発見・開発したという『L8020菌』。この菌を使ったヨーグルトやマウスウォッシュを使うと虫歯菌を殺し、歯周病菌にも結果が出るのだという。実際、歯科医の間でも評判はいいらしい。
「8020」の語源は、言わずと知れた「80歳まで20本の歯」。これは簡単に分かるだろう。では、この菌はどうやって発見されたのか?
商品化した各会社のHPなどを見ると「虫歯になったことがない人を集めて唾液を調査し、その唾液中の乳酸菌を分離して研究したところ、虫歯菌抑制効果を持つL8020菌というのを発見した。」とある。
これだけ読むと説得力があり、すぐにでも使ってみたくなる。
だが、私が歯科医を取材して、商品が出たばかりの初期に聞いた時とは話が違う。当時はこう説明された。
「虫歯になったことがない80歳の老人を集めて唾液を採取し、その唾液中から乳酸菌を分離した。」と。
なんとなく「えっ…?」と思ってしまうのが人間の本能だろう。
他のOEM商品では「健康な子供の口の中から見つけた菌」という内容になっていた。虚偽ではないのだろうが…。
でも、これが真実なのだ。例え本当のことでも、表現の仕方ひとつで、人が受ける印象というのは違うものなのだ。誰も公に口にはしないが、コピーライターが「年寄りの口の中」というイメージは商品価値を左右してしまうと危惧したからに他ならない。
[編集後記]
実は、印象操作なんて広報の世界では当たり前に存在してる。