アイドル記者だった頃、主に新人タレントを担当していた。その中から売れっ子スターになる子もいて、何年か後に再会する者も出てくる。その時の本人を取り巻く環境の変化により、態度が変わる子とまったく変わらない子がいた。
牧瀬里穂が世間で注目を浴びるきっかけとなったのはJR東海のCM『シンデレラ・エクスプレス』だった。私が契約していた某誌は、彼女が話題になる前から「この子はいい!」とばかりにチェックしていて、早速スタジオ撮影をすることになった。
私も撮影後にインタビューするためスタジオへ入ったのだが、メイク室に挨拶へ行ってビックリした。なんと自分でメイクをしていたからだ。
新人なのでお抱えメイクがいないのは仕方ないにしても、普通は出版社側がメイクさんを用意するはずだ。おまけにマネージャーらしき人も見かけなかった。彼女一人で来たのか? 私が来る前にマネージャーは別の用で抜けたのか? どっちにしても「いくら無名の新人とはいえこの扱いはないだろ」と思ったものだ。
その後、彼女は予想通りCM効果で大ブレイクしスターとなった。そして1年後にスタジオ撮影で再会した時、彼女には専属のメイクとスタイリストがついていた。まさしくシンデレラ・ストーリーを見た思いだった。
取材の受け応えも少し面倒臭そうに話すなど、1年前の初々しさは当に失せていた…。
C-C-Bがデビューした直後、彼らはココナッツボーイズという正式名で活動していた。編集部に挨拶に来た彼らは低姿勢の好青年で、「是非ライブに来てください」と招待してくれた。そして、渋谷のライブハウス『エッグマン』に行って、そこで初めて聴いたのが新曲『ロマンチックが止まらない』だった。
正直に良い曲だと思った。ライブ終了後、出口で一人一人観客を見送って挨拶をしている彼らの中で、笠くんが私を見つけて飛んできた。
「来てくれたんですね。ありがとうございます」
そう言って彼は頭を下げた。私は彼の肩をたたきながら言った。
「あの曲すごくいいよ。絶対売れるって!」
「ありがとうございます!」
彼は嬉しそうに深々と頭を下げた。
そして案の定、あの曲は歴史に残るほどの名曲となって大ヒットした。同時に彼らも売れっ子スターとなった。と同時に私も取材できないほど遠い存在になってしまった。今にして思うと「あの時はずいぶん偉そうなことを言ったなぁ」と思わず苦笑いしてしまう。
その後、C-C-Bは解散し、作曲家として活動を始めていた関口くんをインタビューすることになった。もちろん一記者の私のことなどすっかり忘れていた。当時の彼は、腰を低くしてニコニコ笑いながら敬語を使っていたものだが、この時は足を組みながら対等の口をきいていた…。ま、礼儀は正しかったけどね。
* * * * *
Winkの二人がデビューをするというので、マネージャーと共に編集部に挨拶に来た。なんとしても紹介記事を掲載して欲しいマネージャーは、必死になって取材してくれるよう編集長に頼みこんでいた。
人の良い編集長は相田翔子のウルウル眼に負けたこともあってOKを出したのだが、なんといきなり表紙撮影まで許可してしまったのだ。いくら芸能誌ではなくパソコン誌とはいえ、デビュー前の新人を表紙にすることは異例中の異例だった。
非難轟々の編集部員達を前にして編集長は皆をなだめにかかった。
「まぁまぁ、翔子ちゃんは可愛いからいいじゃない。それにデビュー曲が売れたら、次はうちの雑誌を優先して取材させてくれるとマネージャーが言ってくれたしさ」
正直、その時は誰も期待していなかった。売れるかどうか分からないのに…。
しかし、Winkのデビュー曲『愛が止まらない』は大ヒットし、その後彼女らは大スターに! 編集長は鼻高々になり、半年後も表紙で使おうということになった。
ところが、事務所側は全然撮影時間を出してくれなかった。忙しいからという理由で。だが、真相は違った。売れっ子スターをパソコン誌の表紙に使っても意味がないというのが本音だったのだ。編集長は怒ったねぇ。
「せっかくあの時は破格の扱いをしてやったのにぃ。あの時の約束はなんなんだぁ!」
もっともだ。でも、仕方あるまい…。
結局それ以降Winkの取材はできず、俺が彼女らに会ったのはその時だけだった。
* * * * *
どんなに売れても態度が変わらないアイドルもいる。
浅香唯は『スケバン刑事』でブレイクしたが、それまで今ひとつパッとしなかった。しかし、それ以前に何度も取材したことがあり、顔見知りということもあって、スケバン三姉妹の取材に行った時は愛想良く接してくれた。目つきが少し変わり、マネージャーが偉そうに振る舞うようにはなっていたが、唯ちゃんは唯ちゃんのままだった。ほんとにいい子だった。
dos時代の西野妙子とは久々の再会だった。アイドル時代に取材して、その陽気なキャラクターが大好きだった。お互い1回の取材で意気投合したものだ。
しかし、dosへの参加ですっかりキャラクターが変わってしまい、こちらとしてもオチャラケのノリで接することに気兼ねをしていた。だが、どうしたものかと迷っていたら、向こうから「お久しぶりです!」と声を掛けてくれたではないか。妙ちゃんは妙ちゃんだった。
石田ひかりはNHKの朝ドラ『ひらり』でブレイクしたが、その時を前後して1年ぶりの取材で再会したにもかかわらず、私の顔をしっかり覚えてくれてタカビーになることもなかった。
さらに、「友人の結婚式にお祝いのメッセージを欲しい」という私の個人的な頼みも快く聞いてくれた。ピカちゃんはいつまでも頭が良くノリのいい子だった。
変わる人、変わらない人、他にもいっぱいいたなぁ。別にそれが良いも悪いもないけどね。逆に面白かったし、みんないい想い出だ。
[編集後記]
顔が変わるというのはみんな共通の当たり前。逆に、全く変わらない人の方がニュースになる。