プロボクシング世界スーパーフライ級王者の井岡一翔。実力はあるのに、最近はタトゥー問題やドーピング疑惑で世間を騒がせている。その一翔の叔父にあたるのが元世界チャンピオンの井岡弘樹だ。
井岡元王者とは引退後に一度取材をしているが、これには苦い思い出がある。その時彼は井岡ボクシングジムの会長として後進の指導をしていたのだが、それだけでなくボクササイズを取り入れて健康的にダイエットを行うということで話題になっていた。
取材の目的は女性に人気のダイエットについて、ボクササイズの効果を語ってもらうというもの。そのような内容のため、今回のインタビューは女性が行うことになり、私は編集者兼ライターという立場で同行することになった。
しかし、取材先のジムで待ち合わせをしていた女性インタビュアーが、当日になって交通トラブルに巻き込まれ、確保した取材時間内に間に合いそうにないことが分かった。そこで先にジムに来ていた私が急遽インタビューをすることになったのだが…。
なんともはや質問に対する返答が弱い。投げやりな感じがするし、話の核心に触れてもあやふや。いかにも面倒臭そうという感じがありありだった。挙句の果てに自分から「もう約束の時間が終わったので」と言い、一方的に取材を打ち切ってしまったのである。
仕方がないと諦めたところへ、女性インタビュアーが息を切らしながら駆け込んできた。
「遅れて申し訳ありません。もう終わりですよね?」
彼女はお詫びをしに、顔を見せに来たのだった。そして、挨拶だけして帰ろうとした時…
「もうちょっと取材していきますか?」
井岡の方から申し出たのである。
「え~、いいんですか? 時間は大丈夫なんですか?」
「平気、平気」
帰り支度をしていた私とカメラマンは呆気にとられた。しかし、取材内容は不十分だったので、彼女に2回目のインタビューをお願いすることになった。
すると喋る喋る。先ほどこちらが聞いた同じ質問に対しても詳細に話してくれる。笑顔まで浮かべて楽しそうに話す。カメラマンが私にボソッとつぶやいてきた。
「さっきは男のインタビュアーだったから気分が乗らなかったんですね」
恐らくそうだ。当初は女性がインタビューするということで話が通っていた。それがいきなり男に代わったものだからテンションが下がったのだろう。
だが、私はイヤな気分はしなかった。むしろ、自分に正直な人なんだなと感心した。そのくらい好き嫌いをハッキリさせて自我を押し通すほどの人間だから世界王者になれたのだ。
[編集後記]
こちらとしては良い記事が仕上がったので結果オーライだったけどね。