堀江しのぶ ~早すぎた巨乳アイドル~ |  ライター稼業オフレコトーク

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アイドル記者を皮切りに、心霊関連、医療関連、サプリ関連、
コスメ関連、学校関連、アダルト関連、体験取材など様々な
分野の取材執筆をしてきました。
ここでは当時の面白かった話や貴重な情報、取材で思ったこと、
記事にできなかった裏話などを披露していきます。

 今のアイドルと当時のアイドルとで、大きな肉体的違いがあったことをご存知だろうか? それは胸の大きさだ。

 

 

 今や巨乳アイドルなんて珍しくもない。食べ物の関係なのか、素人の女のコまでデカイデカイ! それほど今は、ある意味巨乳ブームなのだろう。いや、ブームではなく、もう既に世間に認知されている“珍しくもない女性のプロポーション”といっても過言ではない。

 しかし、80年代アイドルの胸はそれほど大きくなかった。人によっては微乳と呼ぶ者もいたが、私はそれが平均だと思っていたので美乳というふうに捉えていた。巨乳に慣れた人から見れば貧乳になるらしいが…。

 当時、新人だった私はやたらと取材対象者のプロフィール原稿を書かされていて、その時にアイドル達の胸が79~83が多いことに気づいた。しかも、サバを読んでいることを聞かされていたので、公称83の子は実際80以下であり、80の子は本当に貧乳だったのかもしれない。

 だから、ちょっと巨乳の子が出るとチヤホヤされて、必ず必要以上に胸を強調した水着姿で雑誌のグラビアを飾らされたものだ。巨乳というだけで、もてはやされるタレントがいかに多かったことか! 当時の同業者である元アイドルライターは「MEGUMIは乳がデカくなければただの人だよね」なんて言ってたくらいだ。

 その巨乳アイドルの一人に堀江しのぶがいた。

 

 

 知っている人は少ないかもしれない。なにしろ芸能界における活動が短かったから。彼女は1965年生まれで、ヤングマガジンの美少女アイドルとしてデビューした。身長162センチ、上から90・62・93。一説には89・59・90とも言われていたが、どちらにしても当時としては破格の巨乳だったことには違いない。

 彼女は、その頃から“だっちゅう~の!ポーズ”をとりながら、多くの青少年達のオナペットとなっていた。愛くるしい笑顔を浮かべながら…それが当たり前のように…。

 

 私もそれが当然というか普通のように思っていた。しかし、初めて彼女に会った時、本人の意外な一面に遭遇して普通でないことを知った。

 新宿の某劇場で取材を終えた後、私と彼女は劇場内の階段でたわいもない雑談をしていた。初めて会ったのに、なんとなく気が合ったのか話が弾んだ。そして、短い時間なのに何でも本音で言えるようになっていた。その時に胸の話になり、彼女はポツリとこう言ったのである。

「私、ほんとは胸を売り物にしたくないの…」と。

 大きな胸にコンプレックスを持っていたのだ…。巨乳アイドルとして扱われることに抵抗感があったのだ。話すにつれ今にも泣き出しそうな顔を見せた時、私は何も言えずにただ立ち尽くすのみだった。

 ヌード専門のグラドルでもないのに、撮影中はかなりきわどいポーズを要求されたという。編集部の未使用ポジには、ハッキリ露出した乳首が写っているものが多数あるらしい。なぜそこまでしなければならないのかと思う人もいるだろう。だが、しのぶはプロなのだ。巨乳であることが自分における最高の商品価値だということを言い聞かせ、タレントとしてのプロ意識を自覚し仕事をこなしていたのである。

 そう理解していながらも、彼女はきわどい仕事をやった後、恥ずかしさのあまり泣いてしまったという。ただし、撮影スタッフの前では決して涙を流さない。一人になった時に、初めて普通の女の子に戻って泣いてしまうのだ。

 知らなかった…。グラビア上であんな眩しい笑顔を見せているのに、こんな思いが秘められていたなんて。

 

 

 編集部に戻った後、編集長に「今度からしのぶちゃんを撮る時は、水着をやめて普通のオシャレな服でやりませんか」と何気なく言ってみた。しかし「ばかやろう! しのぶから水着を取ったらただのぽっちゃりだろうが!」と一喝された。それは、とても本人の前では言えないシビアな現実。

 そんなものなのだ…。編集者は個人の感情を入れちゃいけないんだ。ただただクールに読者のニーズに応えるしかない。

 当時としては、巨乳アイドルはまだ珍しかったため、彼女の胸を強調した水着のグラビアは本当に重宝されていた。だから、仕方がなかったのだ。

 

 それからというものは彼女のグラビアを見るのが辛かった。本音を知っているだけに辛かった。そして、今度はそれが突然悲しみへと変わる。88年、彼女は胃がんでこの世を去ったのである。まだ23歳の若さだった…。

 もし彼女が平成の時代にデビューしていれば、変に注目を浴びることのない平均的なアイドルとして活躍していただろう。まさに早すぎた巨乳アイドルであった。

 

[編集後記]

 数冊ものイロっぽい写真集の中で、撮影中のしのぶの涙を知る者はわずかしかいない。購読者は、彼女の豊満な胸と笑顔に癒されるだけ…。それにしてもしのぶはなぜ初対面の私に心の内を打ち明けたのだろう。影響力のない新米ライターだから表沙汰にならないと思ったのか? でも亡くなって数十年経った今、きみの気持ちをここでオープンにさせてもらう。もういいよね…。