2002年10月、AV女優の桃井望が死亡した。心中なのか殺人なのか、その真実は未だ分からない。当時、人気絶頂だっただけにAVファンにはショックな出来事といえた。
その彼女が死んだあと、レンタルビデオ業界である現象が起きたという話を聞いた。それは、彼女の出演したビデオが多くレンタルされ始めたというのだ。まるで新作ビデオが出た時のような勢いで。従来のファンはもとより、彼女に関心のなかったAVファンや一般人までが見始めたということだ。
死んでからにわかに関心が高まるというのはよくある話。私もそういう場面に遭遇したことがある。あれは1986年4月8日のこと。当時、芸能関係の書籍を多く出している出版社で、アイドルの編集者として活動している時だった。
時刻はお昼ちょっと過ぎ。あるタレントを取材してタクシーで帰社する途中、東京の四谷4丁目の交差点に差しかかった時、タレント事務所の大手サンミュージックの前に人だかりができていた。初めは人気アイドルの追っかけ集団かと思ったがそうでもない。ファンにしては年齢層がバラバラだったからだ。おじさんやおばさんもいる。さらには…警察官もいる。
事件か事故が遭ったのだろう…。それにしても気になったのはモップでアスファルトを清掃している人がいたことだ。
出版社に戻ると、タレントが自殺したという話題で大騒ぎになっていた。
「岡田有希子が事務所の屋上から飛び降りた」と…。
あのモップがけは彼女の血痕を洗い流していたのだ。
ショックだったね。彼女は売れっ子アイドルだったし、個人的には一度も取材した事がなかったのでぜひ会いたいと思っていたからだ。しかも、出身中学が同じで先輩後輩の間柄だったので、よけいに親近感を持っていたのだ。
しかし、もっとショッキングだったのは、彼女の自殺がマスコミで報じられた直後の出来事。編集部の電話が一斉に鳴り始めたのだ。相手はすべて書店。岡田有希子関連の本の注文だった。アイドル専門の出版社なので、単行本や写真集を多く出しており、当然その中には数年前に出した岡田有希子の在庫本も含まれている。
人気絶頂だった彼女が自殺というセンセーショナルな死に方をしたために、これから注目を浴びるということが書店業界の関係者には分かっていたのだ。にわかファンや関心を持った一般人らに本が売れるということを知っていたからだ。出版社にしても、過去に出した本が在庫処分できるわけだから悪い話ではない。
しかし、あまり気持ちのいいものではなかった。なぜなら、死者で金儲けをするということだから…。なんだか辛かった…。でも、これが商業主義の現実…。
ところが、死ぬと本は売れるが、警察沙汰などのスキャンダルでは売れない。私は織田無道住職の本の編集を3冊ほど携わっている。2002年9月に逮捕された時、不謹慎ながら話題性で再び本が売れるかなと思っていた。そこで、事件の翌日に本屋に状況を見に行った。それまでは棚に1冊だけしか置かれていなかったのだが、今度は平積みにされているだろうと思って!
撤去されていた…。
[編集後記]
ユッコの自殺から約一ヵ月後、自称超能力タレントを名乗っていたエスパー伊東を取材した。彼の芸が本物かどうかは別として、オカルト関係に詳しかったことは確かだ。そこで、私が偶然にも自殺直後の現場を通った話をしたところ次のようなことを言われた。
「それはおびき寄せ現象ですよ。自殺した人の魂が、寂しさのあまり自分と何らかの関係のある人を呼んだのです。あなた達は中学の先輩と後輩という間柄だったんでしょ? だからです。そうでなければ、あんなセンセーショナルな現場をリアルタイムで通ったりしませんよ」
う~ん、妙に納得してしまった自分が悔しい…。