ライター稼業オフレコトーク

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アイドル記者を皮切りに、心霊関連、医療関連、サプリ関連、
コスメ関連、学校関連、アダルト関連、体験取材など様々な
分野の取材執筆をしてきました。
ここでは当時の面白かった話や貴重な情報、取材で思ったこと、
記事にできなかった裏話などを披露していきます。

発達障害における不十分な対策が

犯罪者と被害者を生み出している

 

 発達障害は病気ではなく特性とされている。特異な言動から普通とは変わった人だと奇異な目で見られてはいるが、強盗殺人を犯すような凶悪な事件を起こすことはない。迷惑をかけられていると戸惑う人もいるだろうが、それ以上に戸惑っているのが本人なのである。そして、社会に溶け込めない生きづらさに日々悩んでいる。

 今でこそ、発達障害の症状は広く知られるようになったが、世間での理解はまだ不十分だ。ジェンダーについては盛んに論じられ対策が講じられるようになったが、それ以上に深刻かつ真剣に論じ早急に取り組まなければならないのは発達障害者への対応である。

 国が何もしていないわけではない。だが、支援がまだ不十分だ。だから、以下のような事件も起きるのである。

 

<スマホ窃盗詐欺事件の概要>

 今年2月上旬、窃盗詐欺の容疑で57歳の無職の男が逮捕された。容疑者は飲食店で客のスマホを盗み、それを落とし物と装って交番に届け、謝礼として報労金を搾取していたのである。謝礼金は5000円、それを60回以上繰り返し、14人から報労金を受け取っていたという。そして落とし主に対して「落とさないようスマホはカバンにしまったほうがいいよ」とアドバイスを送っていたとのこと。調べに対し本人は「落ちていたものを拾って交番に届けただけで、報労金を受け取るのは当然の権利だ」と、容疑を否認しているという。

 

 この事件が報じられるとネットのコメントには……

「やることがせこい」

「60回もやれば、警察に怪しまれるというのが分からないのか」

「なんてマヌケな犯罪だ」

「反省していないなんて頭がおかしいんじゃないの」

「57歳にもなって働きもしないで」

 ……等々ボロクソな意見が投稿されていた。記事だけを一般的な目で見れば、確かに働かない頭の弱そうなオヤジが、単純な犯罪を繰り返して反省もしていない……と捉えられてしまう。まさに同情の余地なし。

 

 それにしても、昨今この手のせこい犯罪が多いように思える。神社の賽銭を盗む事件も同様だ。その犯人の多くが無職。私は常々「無職が犯罪に手を染める」と思っていた。働きさえすれば、小銭を騙し取ったり盗んだりする必要はない。そんなことをするくらいなら「まず働け。何でもいいから働け」と思っていた。

 だが、今回の事件の裏側を知ることで、そんな単純な言葉では片付けられない社会的側面があることを知った。

 

 

<事件の背景にある容疑者の人生>

 問題があるのは、記事が事件の表面しか報じていないことだ。事実だけが報じられその背景にあるものが無視されている。第一報では仕方ないのかもしれないが、犯人像がまるで知られていないので、人々は皆ネットのコメントと同じような感想を持ってしまう。

 いずれ裁判で明確になるが、今回の容疑者は発達障害だったのである。この事実を知れば見方も変わってくるはずだ。発達障害の子を持つ親も気が気でないはずだ。

 

 容疑者は中学を卒業後、一度も定職に就くことなくアルバイト生活を送ってきた。進学をしなかったのは経済的な問題ではなく、ただ勉強が嫌いなだけだったのだろう。同級生からいじめか無視に遭っていた可能性もある。

 家族構成は両親との三人家族でひとりっ子。就職をしなかったのは両親の甘やかしなのかどうかは分からない。ただはっきりしていることは、性格的にどこへ行っても定職に就くのは難しい言動にあったからだと思われる。

 人間関係が上手くいかず、働いてもトラブルが多く、周囲から嫌われないまでも鬱陶しがられたであろうことは間違いない。

 

<放置されていた昭和の発達障害者>

 容疑者と家族にとって不幸だったのは、子どもの頃に発達障害という言葉が一般的にまだ知られていなかったことだ。57歳ということは、昭和43~44年生まれ。当時、小中学生の頃に変わった言動を取っていれば「変な奴」「頭がおかしい」「アホな奴」で一括りにされていた時代。ときには「精神薄弱」などと、コンプラ無視の昭和ではボロクソに言われていたものだ。

 言う方も酷いが、言われる者をほったらかしにしていた国や教育委員会も悪い。ただ「いじめは良くないのでやめましょう」のひと言で片付けられていた。

 もし、今のように発達障害のことが知られていて、治療なりカウンセリングを受けていれば、容疑者もその家族も救われたかもしれない。

 

 その後の容疑者は、劇団に入り俳優を目指すものの、大根なので通行人程度の役しか与えられなかった。それでも本人は舞台に出られたと大喜びし、ただただレッスン料だけをむしり取られていた。

 

 行動力は並外れていた。正確には怖いもの知らず。悪く言えば常識外れ。相手のことは一切考えず「迷惑をかける」という概念がない。どこにでも臆せず突っ込んでいく姿勢は昭和のモーレツ営業マンに向いていたかもしれない。だが、行き過ぎた行為はブラックリストに載ってしまい、あちこちから出禁をくらっている。何をやらかしたのかは知らないが、数年前に東京ドームでも出禁をくらい今でも要注意人物らしい。

 

<純情ゆえに犯罪被害に遭いやすい>

 AIに「発達障害の特性と事件の関わり」について聞いたところ、次のような回答が来た。

「発達障害があることは、犯罪を起こしやすい傾向とは直接関係ありません。むしろ、犯罪被害に遭うことの方が多いと言われています。」

 実際、容疑者は詐欺被害に遭っている。現役アイドルの名を語った詐欺師から「内緒で付き合いたい」とのアプローチを真に受け、亡くなった父親の遺産を次々と振り込んでいった。本人はニュースを見ないので、そんな詐欺事件が横行していることなど知らないし、何よりもアイドルは本物だと信じ込んでいるため、周囲から制止されても耳を貸そうとしなかった。本気で結婚までできると信じていた。

 

 人はよくこの手の事件を聞くと「そんなことあり得るはずがないのに」「信じる方がバカだ」「ニュースを見てれば分かるだろ」と被害者を責め立てる。だが、発達障害者は純情過ぎて疑うことを知らないのだ。だから被害者を悪く言うのはやめてほしい。この場合「騙された方が悪い」という論理は当てはまらない。

 

 容疑者は根っからの悪人ではない。父親を亡くし、団地を追い出され、母親は施設に入居。母一人、子一人になってからも、母親への思いやりは欠かすことがなかった。必ず面会に行っていた。優しい面もあるのだ。

 容疑者の友人が離婚をして、子どもと二人きりの生活になったときのこと。奥さんが浮気をして幼い子どもを捨てて出て行ったのだが、その話を聞いた他の人たちは友人に対して同情するしかなかった。しかし、容疑者一人だけは拳を震わせながら「浮気した挙句、幼い我が子を捨てるなんて許せない!」と怒りまくっていた。正義心が強いのだ。

 

<事件の真相を解明する>

 容疑者の背景を見たうえで、ネットのコメントを考察してみよう。

・「やることがせこい」……根っからの悪人ではないので大胆な悪行は思いつかないのである。

 

・「60回もやれば、警察に怪しまれるというのが分からないのか」……犯罪という意識が薄く麻痺してしまうからだ。あとのことを考えずに(考えることができずに)行動してしまうため回数を重ねてしまったのであろう。

 

・「なんてマヌケな犯罪だ」……これは推測だが、初めからやろうと思っていたわけではないはず。純真だった容疑者が、最初に善意でスマホを届けたところ、たまたま報労金を貰えてしまった。そこで味を占めてしまったのかもしれない。もうひとつは、報労金の制度があることを誰かに吹き込まれたとも考えられる。一般常識に欠ける容疑者が自発的に行うことは無理だ。

 

・「反省していないなんて頭がおかしいんじゃないの」……本人は取り調べに対し「落ちていたものを拾って交番に届けただけで、報労金を受け取るのは当然の権利だ」と言っているが、これは虚言でも言い訳でもなく本心だ。犯行を認めないのは、自身の行いを正しいと錯覚しているからである。少なくとも逮捕されたときまではそう思っていたはず。その後の取り調べで反省ができれば、初めて自分のやったことが犯罪だと認識するだろう。

 

・「57歳にもなって働きもしないで」……先述したように、社会に順応できず働けないのだ。発達障害者の多くが、働きたいのに働けないという苦しみに苛まれているのである。

 

<国の支援が必要>

 今回の事件を「せこい変な事象のひとつ」と、看過することはできない。国が発達障害に対してもっと前向きに、今以上に積極的に対策を講じる必要がある。

 

 今からでも遅くはないので、ただの頭のおかしい奴とからかわれてきた昭和世代の発達障害者を助けてやってほしい。そうしなければ今後も似たような事件は続発する。犯罪防止というか犯罪者にならないようにするためにも必要だ。

 

 今のままでは詐欺被害者の増加が止まらない。騙された方が悪いのではない。詐欺師は高齢者と発達障害者をターゲットにしているから詐欺被害は収まらないのだ。このままカモにされ続けないように、表面化している高齢者だけでなく、発達障害者も救ってほしい。

 

 働ける仕組み・働ける場所を増やして支援してほしい。国の支援があまりにも脆弱過ぎる。普通に働きさえすれば、犯罪に手を染めるようなことはなくなるはず。働けないから無職という肩書がついてしまう。だから働けるように支援してほしい。普通の失業者だけでなく、身体障害者だけでなく、心の病を抱えている人も支援するべきである。

 

 当てにならない心療内科が多過ぎないだろうか。患者の顔を見ず、パソコンにデータを打ち込むだけで、訳の分からない薬を処方するだけ。今までこのような治療風景を幾度となく見てきた。これが治療と言えるのだろうかと思った。薬で脳を抑えるだけでは何の解決にもならない。このような野放し状態の医療体制も何とかするべきである。発達障害は病気ではないからと軽視しないでほしい。

 

 発達障害は病気ではなくて特性であると言われている。確かにそうであり突出した人物も出ている。だが、綺麗ごとはたくさんだ。実際は、社会に適応できずに苦しんでいる人の方が多い。負の部分にもっと目を向けてもらいたい。

 本人が苦しいのはもちろんのこと、親も同じくらい悩んでいるのだ。

 

 

<生活保護が容疑者を変えた>

 生活保護の仕組みも何とかするべきである。

 容疑者も途中から生活保護を受けるようになった。そのため働かなくてもいい環境になってしまった。母親の年金も食いつぶしているだろうから、酒と食事には困らない。余った金はアイドル詐欺に搾取される。50歳になって初めてスマホも手に入れた。

 

 生活保護の受給額は月12万くらいと聞く。5万の年金で必死に働いている年金受給者からするとバカバカしくなってくる。

 区役所で生活保護の担当者に話を聞いたとき「無駄に受給するあくどい人がいるので頭にくる」と怒っていた。

 今回の容疑者も生活保護という楽な生き方を覚えなければ、犯罪者にならなかったかもしれない。生活保護の仕組みに甘やかされなければ、ただの変な人ですんでいたかもしれない。生活保護は本当に困っている真面目な人にのみ支給されるべきである。

 

<不幸な人生にとどめを刺す不運>

 最後に、容疑者の不運を語ろう。今回の事件は発達障害者ならではのちょっと変わった犯罪だったことで注目されてしまった。しかも、世間には目立つ事件事故がなく、オリンピックも始まっておらず、衆議院選挙で自民が圧勝する前だった。もし、オリンピック中もしくは選挙直後だったら埋もれてしまった事件だ。

 一時は俳優を目指してテレビで母親を喜ばせようとしていたのに、逮捕された姿がテレビに映ることになろうとは、なんとも皮肉な人生だ。母思いが親不孝に変わった瞬間だった。

 

 同情はする。しかし、犯罪は犯罪だ。司法がどのような判断を下すのか注視したい。

 

[編集後記]

 それにしても発達障害と犯罪について深く考えさせられる事件だった。発達障害を抱える本人と親の苦労も計り知れない。国よ!マジでなんとかしてくれ!それができるのはあんたしかいないのだから!