第2話「八女 恭一という男」
5月に入り、高校生の最初のお祭りであるゴールデンウイークがはじまった。
ただ、部活動に参加している生徒にとってはインターハイに向けての合宿や練習試合が組まれていたりと最後の追い込みに熱が帯びている時期でもある。
バスケ部も例外ではなかった。
唯一、救われたのは去年の成績による格上げで遠征する側ではなくホームで迎え入れるという形が多くなった。そのため、練習試合なども森の里で行うことが多かった。
練習試合では、ルーキーとのケミストリーも成功し、前評判よりも高いチーム作りができていた。
そんな初夏の暑い、いや、熱いゴールデンウイークは終わりを過ぎようとしていたそんな矢先。
豊田にとって忘れることができないであろう5/5の子供の日、豊田は出会ったのだ。あの『世界』に……。
ーーー5/5ーーー
その日はゴールデンウイーク最終の練習試合の日だった。
ホームではなく、同じく市内の古豪 東海第六高校での試合だった。
東海は全道予選の決戦リーグ常連で全国経験も豊富な高校だ。そこでの試合で、今後を占う意味もあった。
東海は森の里と15kmほど離れており、地味に遠い距離である。
豊田は下宿暮らしで、森の里のすぐそばに住んでいた。豊田はこの距離を自転車で移動していた。
他のチームメイトは地元出身者が多く、実家から地下鉄やバスなどで通っていた。なので豊田はいつも東海に行く時は1人で自転車で移動していた。
交通機関を使わないのはゲン担ぎである。そしてアップを兼ねているからだ。
いつも通り、東海に行く際の道を通る。途中5kmくらいの所に来た時に赤い棒を持ったおじさんが道路で大きく何かを合図しているのが目に入った。
近くに行くとそれは、交通事故だった。おじさんは警官だった。
トラックと乗用車複数の衝突事故だった。国道では無いが車通りのある道道であったために、大きな騒ぎとなっていた。
交通規制が掛かり、片側2車線ずつあったが、迂回せざるを得ない状況になっていた。
自転車も同様に迂回しなければのらなかった。
豊田は事故の悲惨のショックもあったが、知らない小道に入るという不安の方が強かった。
すぐ元の道へ戻れると踏んでいたが、なかなか通りに出る交差点や道が無く、住宅街を走っていた。
気づくとJRの高架が見えてきた。
豊田はホッとした。
高架の沿線をたどれば東海の最寄りに着くと確信したからだ。
豊田の足取りが軽やかになった。
更に1km進んで、交差点に止まった。豊田はここで曲がって元来た道に戻ろうかと思ったが、交差点の先の高架下が気になった。
時刻は昼の12:30頃であったが、そこは何か暗く重い雰囲気を纏っていた。
少し躊躇する豊田。
曲がるのを諦めその場所に向かった。
近づいて行くと、鉄網のバリケードが周囲を囲み、高架の支柱や壁には至る所にスプレーアートがあった。
地元のヤンキーの集会所か何かと思ったが、その想像は次の瞬間消し飛ばされる。
バスケットゴールだ。
綺麗なバスケットゴールがあるのだ。よく見ると地面は舗装されており、ラインらしい物も引いてある。
豊田は呆気にとられ、マジマジと見入ってしまった。
小さなテントや段差のあるステージ台、スピーカーなどもあった。
pppppp…
豊田はハッとした。
豊田の電話が鳴った。
マネージャーだった。
豊田が寝坊していないか確認の電話だった。もう向かってるから安心してと伝え、その場を去った。
豊田はあの場所が気になって仕方なくなっていた。
バスケットゴールがあるということは、あそこでバスケが出来る。けど、入口は厳重に施錠されて入れない。誰のコートなのか。果たして使われているのか。
単純にバスケット好きとして興味がわいたのだ。
頭の中で堂々巡りを繰り返しながらも、東海に向かい、無事に着いた。
東海との試合は2試合を行い、一勝一敗のタイだった。東海もルーキーの層が厚く、手強い相手となっていた。ただ、一敗したのはスタートメンバーを外しセカンドメンバーを試したからだ。
ちなみに豊田のスタッツ(成績)は以下の通りである。
一試合目(40分)
42ポイント、7アシスト、9リバウンド
二試合目(9:27)
12ポイント、0アシスト、3リバウンド
試合後、ミーティングを行い、明日はオフということになった。
夕方18時くらいになったこともあって、チームメイトでご飯を食べて帰ろうと盛り上がった。
が、豊田は気が向かなかった。阿曽や他のチームメイトは「デートか?」と茶々を入れるが、豊田はそんな冗談も受け流した。
そう。あの『バスケットコート』が気になるのだ。
もう1度見てみたい。その思いに駆り立てられた。
早々にチームメイトと別れ、自転車であの場所へ急いだ。
陽が暮れはじめ、街灯がボンヤリとつき始める。大きな高架のせいか、暗くなるのが人一倍早くなるように見えた。
そしてとうとうあの場所へ着いた。周りの街灯がコートを淡く照らす。
重い雰囲気は益々重くなり、何か張り詰めているようなそんな感覚だった。
豊田は周りを見渡したが、誰かいる気配もなく、コートが開いてるわけでもなかった。
豊田は少しガッカリした。と同時に苛立ちが起きた。なぜこんな所に来たのか。よく考えたらただのバスケットコートじゃないか。チームメイトとご飯行けばよかった。色んな思いが駆け巡った。
俺は何を期待していたんだろう、よくわからない自分に余計に苛立った。
そんな時、1台の黒いワンボックスがコート近くの道路に横付けされた。
車からは激しい音楽が漏れていた。
豊田は立ちすくんだが、すぐさまコートが見える位置に隠れた。
車の運転席から、大柄な男が1人出てきた。上下ジャージにキャップを被り、Bボーイの様なダボッとした格好をしている。
彼はそそくさとコートの鍵を開けた。すると、助手席からもう1人小柄な男が出て来てトランクやら後部座席を開け、何か機材のようなものを運び始めた。
先の大男もそれを手伝い始めた。
豊田には何やっているのかわからなかった。
2~3分後、続々と車がそのワンボックス周辺に駐車し始めた。車からは体格の大きい男達が続々と出て来て、コートに入っていく。中には外人もいるではないか。
異様だった。
最初の大男と小柄な男は機材を運び終え、セッティングし終えると大音量のBGMを流し始めた。ヒップホップだ。大音量に驚いた瞬間、次は照明がついた。
照明で改めて照らされるコートが目に入ってきた。
豊田は圧倒された。
さっきまで重苦しかったコートが、憑き物が取れたように軽くなっていく。そして何かキラキラ光っているるような錯覚を覚えた。
その間にも車が次々と横付けされ、男達がコートに入っていく。
男達はコート横で着替え始め、バスケットボールを取り出し、バスケをやり始めた。
豊田はここで察知した。そして少し混乱した。
これから何か始まるんだ。バスケをやることは間違いない。ただ、何の試合なんだ?そもそも試合なのか?と。
その間にも車は横付けされ続ける。
今度は大男ではない。普通の人っぽい。女性もいる。色んなグループがたくさんやってきた。
隠れながらその光景を目で追っていた。
その中にあり得ないものを豊田は見つけてしまった。
あの風貌。
あの体格。
あのオーラ。
八女 恭一だ。