第1話「豊田 皇と怪しいクラスメイト」
2014年4月ーーー
北国は北海道の札幌市内の「森の里高校」は、創設当時から進学校として名を馳せていたが近年ではスポーツも力を付け、各々の部活動で全道全国の常連となってきた。
その中でもバスケットボール部は男女共に強豪と呼ばれる強さとなった。女子は近年5年連続でインターハイ、ウィンターカップに出場するほどの強さだった。男子は女子には劣るものの、札幌の古豪と決勝リーグを争える位置にいた。
そして昨年の2013年インターハイ全道大会、男子バスケットボール部は予選を堂々と勝ち抜き、ついには決勝リーグ全勝で全国の切符をつかんだ。初の全国ということもあって、周囲の期待は低いものだったが結果はそれを裏切るものとなった。結果は全国ベスト4。堂々たるものであった。その大躍進を支えたのが、なんと入部して間もない1人の一年生であった。
彼の名は「豊田 皇」
中学では2度全中を制覇し、オールジャパンU15選抜にも選ばれたサラブレッド中のサラブレッドであった。
卒業後の進路では、沖縄や大阪などの強豪校の推薦を断り、北海道への進学を選んだ。
理由はただ1つ。
「一から自分の力を試したかった」
こうして森の里高校に進学し、彼の力によって男子バスケットボール部は全国でも注目されるようになった。
そして話は戻り彼が高校2年生になった2014年4月、一つの出会いから運命がゆっくりと動き出す。
2014年4月 新学期
森の里高校は普通科のみで、2年生はクラス替えがある。
豊田は6クラス中のA組になった。
1クラスはだいたい平均で35人くらいの生徒がいる。
担任は「松嶋」という社会を担当している、42歳の男性教諭だった。
新しいクラスには、一年生の時の友達が数人いた。その中で同じバスケ部の「阿曽」とは仲が良かった。
一学期始業式終了後のホームルーム。担任の挨拶が終わった後、軽い自己紹介が始まった。
席順が出席番号順で阿曽はトップバッターだった。バスケ部でムードメーカー的な存在である彼は、自己紹介でもそのひょうきんさを出したが見事に失笑を買ってしまった。
豊田の番になると、軽く周囲はザワつき始める。まず身体が大きい。199cmという高さは周りとはかけ離れている。そして、バスケ部の活躍が多少メディアにも紹介されたこともあって、改めて名前を聞いたクラスメートがざわつき始めたのだ。
豊田は卒なく真面目に自己紹介を済ませた。
自己紹介も終盤を迎え、担任の松嶋が「次、八木ー。」と名指ししたが、八木は休みだった。
反応がなかったためクラスは一瞬八木の机の方を見て、また視線を前に戻した。
松嶋「八木休みかー。連絡ないなぁ」
松嶋「じゃあ、自己紹介は以上で次はクラス役員を決めて行くから」
豊田と半分のクラスメートはここで違和感を感じた。
なぜなら、自己紹介が終わったからだ。八木の次にまだ生徒がいるからだ。
八木の席の後ろに、もう一つ空席があったことを確認していたからだ。
そのことに担任が触れないことに猛烈な違和感を感じていた。
すると阿曽の席周辺と、豊田のすぐ後ろでザワザワし始めた。
豊田はもちろん聞く耳を立てた。何気ないふりをして。その違和感を解消してくれる何かだと直感で感じていたからだ。
「八木の次て誰なの?」
「俺しらねー」
「多分、八女じゃね?」
「『八女』?」
「『八女 恭一』」
「…聞いたことねぇけど」
「俺去年そいつと同じクラスだったからさ」
「なんでいねぇんだよ?」
「不良なの?」
「いや。全然不良じゃねぇよ。むしろ人見知りていうか、不気味ていうか」
「友達いないタイプ?笑」
「まぁ、そうかな…。誰かと話してるのを見たことがないなぁ」
「大丈夫かよそいつ!?笑」
「んで不登校児なのか?笑」
「いや、学校は来るよ」
「はっ?」
「ほぼ皆勤賞だよ」
「はっ?なんだよそれ」
「理由はわかんねぇけど、週に2~3は遅刻してきてたな。朝に弱いだかなんだか…」
「なんだよ!ずりぃな!」
「先生公認なのかよ!?」
「みたいだな」
「なんだよそれ」
「多分このあと来るぜ」
「マジか」
「楽しみだな。笑」
豊田はふっと気がつき、黒板に目をやると推薦でクラス役員の候補に挙げられ、すでに決戦投票されていた。
豊田は晴れて?クラス役員になった。
ホームルームが終わり、豊田は阿曽と休み時間に八女について話をした。阿曽のざわつきが気になっていたのもあった。決して八女が気になるとかではなく。自然の成り行きだった。
豊田はそこで知る。阿曽も去年同じクラスであったということ。近寄りがたいオーラがあること。警察沙汰になったという噂があることなど。
クラス中も八女の話で持ちきりだった。
そして3時間目に入る前の休み時間に、八女は現れた。
八女と去年同じクラス生徒は慣れていたが、初めて彼と同じクラスになった生徒はその八女が放つピリッとしたオーラに少したじろいだ。
豊田も感じていた。本当に高校生かと思わせる風貌とオーラを。
身長は豊田くらいあるだろうか。ただ少しだけ豊田の方が高い。190くらいだろうか。
八女は新しいクラスであるにも関わらず、それとしたリアクションはせずに席に着いた。
誰も八女に話しかける者はいない。その逆もない。
元クラスメートもその雰囲気が当たり前という空気を出し、八女もそれが当たり前という空気を出していた。
豊田も新しいクラスメートもその違和感を異様に感じていたが、授業が終わり昼休み頃にはすっかり普通になっていた。
ーーー昼休みーーー
豊田と阿曽は学食に行っていた。
豊田「なぁ、あの八女ってやつ…」
阿曽「また八女かよー」
豊田はなぜか八女のことが気になっていた。理由はわからない。
ただ阿曽の一言で、余計にそのトゲを取れないでいた。
阿曽「あいつあんなにガタイが良いのに、帰宅部だからな」
豊田「えっ?」
豊田はもったいないなと思いながらも、何故だという思いが次第に強くなる。
短いバスケキャリアながらも、身体的な能力は天性であって、その差がつくほどスポーツにとって不利であることを誰よりも知っていた。
そして、身体的能力で挫折し嘆くプレーヤーをたくさん見てきたからだ。
阿曽ですら180くらいと恵まれているが、森の里ではベンチにも入れていない。
それがゆえに、あの八女の体格は成長期にも関わらず何もスポーツをしていないとはにわかに信じることができなかったからだ。
豊田「中学も何もやってなかったの?」
阿曽「そこまではわからないよ」
確かに遺伝的に背が高くなることはあるが、制服ごしに見える骨格は豊田を騙せなかった。
あれは確実に何かしている身体だ、と。
昼休みも終わり、授業に入ると豊田は八女の事が頭から離れなくなっていた。
「格闘技か」とも思ったが、耳や拳にタコがある気配もない。その可能性もない。
そんなことを考えていると、あっという間に放課後になった。
豊田は今週掃除当番だった。
何もない八女はホームルームが終わると同時にそそくさと帰宅した。
豊田(本当にすぐ帰るんだなぁ)
そして豊田は2年目のインターハイに向けて練習に励んだ。
こうして豊田は八女を気にしながらの学校生活が始まった。
ーーー1週間後ーーー
豊田のクラスは次第とクラスメート同士が馴染み始め、新たな友達や繋がりが増え始めた。
中でも阿曽のひょうきんさから豊田とコンビで例えられ、クラスのちょっとした人気者になりつつあった。
バスケ部も豊田の活躍のおかげで、強豪中学からのルーキーが増え、益々インターハイへの熱が帯びた。
反面、八女は相変わらずクラスとの接触をせず、学校が終わればすぐに帰宅という生活を繰り返していた。
が、2人の生活も長くは続かず、次第に絵の具のように濃く混じりあっていくとはこの時は誰も知る由もなかった。