第3話「BEYOND」
八女の登場。
その登場によって、豊田は益々混乱した。状況が整理しきれなくなっていた。
八女はコートに入り、大男達と会釈し、会話をしているようだった。
学校では見せない笑顔見せながら。
外人の大男にも気さくに話しかけている。
八女はパーカーとスウェットを脱ぎ捨て、Tシャツとハーフパンツに着替えた。靴も履き替え、カバンからバスケットボールを取り出し、大男達と一緒にシュートを打ち始めた。
豊田は理解した。
八女の体格はやはりスポーツをしている身体だ。しかも、豊田と同じであるバスケットという競技をしていた。謎が解けスッキリしたと同時に、八女のバスケットが気になり始める。
ここは何なのか。
八女はなぜここにいるのか。
そんな疑問は吹き飛んでいた。
八女がするバスケが見たい。
その一心だった。
「おい」
そんな時だった。
豊田の後ろからジャケット姿の髭を蓄えた50歳くらいの男が、豊田に声をかけてきた。
豊田は最初無視したが、明らかに自分への声かけだったので、渋々応えた。
男「こんなとこで何をしているんだ」
豊田「いや、あの、えーと…」
豊田はしどろもどろになりながら、男をちらっと見た。
男は豊田くらいに身長があった。それに気づき豊田は少し驚いた。
男「試合を見に来たのか?ん?」
豊田「あー…はい。そうです」
豊田は嘘をついた。
男「じゃあ観客席に行ったらいいじゃないか。あ、お友達と待ち合わせかな?」
豊田「あー、そうですそうです」
観客席?と思いながらもまた嘘をついた。
男「ていうか、君大きいな!もしかしてバスケやってる?」
豊田「あ、いや、あのー…」
2秒くらい沈黙があり
豊田「バレーボールやってます」
なぜこんな嘘をついたのか豊田自身もわからない。
何かヤバイ気配を本能的に感じからだろうか、とっさに出た嘘だった。
男はそうかと少し残念そうに返事をしながら、「楽しんでな」と言い残しコートに入っていった。
引き続き同じ所に隠れて見ていると、音楽が変わった。シュート練していた大男達と八女はコート脇のベンチの様な所に腰かけていた。そしてユニフォームというか洒落たナンバリングに着替え始めた。
豊田はさっきのやりとりで少し動揺したが、そのおかげで少し冷静に戻れた。
ここではバスケの試合があり、お客が見に来る。そしてプレーヤーは多種多様であることなど、色々なことが整理できた。
そして確実に八女はプレーヤー側で、今からあの大男達とやり合うということ。
豊田はバスケの好奇心と、八女の好奇心が入り混じり、どうしても近くで見たくなった。
観客席と言われて初めはわからなかったが、よくよく見ると大きなステージにギャラリーがたくさんいるのを見つけた。あそこに行けば近くでみれる。
ちょうどそこに、20代中盤くらいの観客がコートに入ろうとしたのでピッタリと後ろにつき、知り合いを装いながらコートに入った。
豊田なりに先程声をかけてきた男への、償いだろう。というか、罪悪感を拭いたかっただけかもしれない。
とにかく侵入に成功した。
豊田はステージのギャラリーに混じった。
ただ豊田は199センチあるため頭一つ飛び出ていた。少し目立っていた。
プレーヤーの大男の何人かも、無意識に豊田に視線がいった。
豊田はホッとしつつも、中から見る景色に酔っていた。
先程声をかけてきた男はテントブースの中でタバコをふかしながらソファに腰かけていた。その横で機材をいじる、Bボーイの大男と小柄男のコンビがいた。
所々にテレビモニターや、ビデオカメラ、照明、ポスター、スピーカーがあった。
豊田は次に選手に目をやった。
自然と八女を追っていた。
が、豊田は感じた。
あのオーラを。
そして次の瞬間八女と目があった。
その間1~2秒くらいだったろうか。
豊田はヤバイと思いながらすぐに視線をそらした。
顔を引っ込ませすぐまた、八女の方見ると、こちらを見てほくそ笑んでるように見えた。八女もすぐに視線をずらした。
豊田の心臓はバクバクだった。
気付かれただろうか。
いや、わからないだろう。
豊田はそう言い聞かせることにした。
プレーヤー達が立ち、ベンチで整列し始めた。その瞬間照明は暗転し、選手一人一人にスポットライトを浴びせ始めた。それと同時にBボーイの大男がマイクで選手紹介をし始めた。
次々と紹介していき、ギャラリーも徐々に盛り上がっていった。
そして紹介が終わり、豊田に声をかけてきた男にマイクが渡され挨拶を始めた。
男「初めましての方もそうじゃない方も、どうもナッシュ後藤です!グラッツェー!!!」
豊田は唖然とした。さっきまでの紳士的な感じが一切ないからだ。
しかもナッシュて。
ナッシュ「さぁ今日は第24節ですが、どんな試合を見せてくれるんでしょうか!!!首位争いも激しさを増してきておりおりよー!!!」
豊田(おりおり?)
ナッシュ「ギャラリーもそしてカメラの向こう側の人もビッチもヒッキーも、盛り上がっていこーぜー!!!ふぉー!!!」
地鳴りのような歓声が響く。と同時に音楽も激しくなる。
そして暗転し、ナッシュにピンスポがあたる。
ナッシュ「でははじめよう」
「 BEYOND」
開戦!