それからの成均館 -14ページ目

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ムン家の娘がイ家に嫁ぐという話は、瞬く間に両班の間に広まった。老論のものも小論のものも苦い顔をしている。他派閥の家同士の婚姻は、なかなかに珍しい。特に家格が大きければ大きいほど、同じ派閥内で縁談が降るほどあるのだから、わざわざ他派閥との縁を結ぶ必要はないわけだ。

 

 しかしムン家は、現当主が他派閥の娘を妻にして、それはそれは睦まじくしているという前例を持っているので、イ家との当主同士の友人関係を知っている者たちは諦めもあったのだが、複雑な気持ちは隠せはしなかったざわつきなのだろう。

 

 そんな周りの雑音など関係なく、婚儀は滞りなく行われた。何よりも、出仕して間もない現左議政の息子、婿本人が、婚儀前から本当に嬉しそうにしていたのを、皆は知っていた。そんなにうれしいのかと半分嫌みのように同輩が聞いてみたところ、素直に頷かれて返す言葉もなかったという。もう少し仲の良いものが聞くと、本当にかわいらしい人なのだ、と頬を染めて答えたのだ。

 

 「今を時めく妓生のユンファよりもか?」

 

 と聞いた同席していたものの質問には、首をかしげて終わったらしい。父親と同じで花街にとんと興味がない彼には、有名な妓生ユンファは容貌すら思い浮かばなかったようだ。

 

 おかわいらしい、と婿本人が言っていても、周囲のものは父親のムン・ジェシン大監の厳つく大柄な様子や、その息子二人のがっちりした体躯と角ばった強そうな顔しか知らない。ムン・ジェシンの奥方の弟が大層美しい人だったと言っても、覚えているものはそれほど多くはなかったから、皆花嫁についての情報が分からずそわついていた。

 

 婚儀の日、数々の疑問は払しょくされた。

 

 花嫁衣装に覆われた新妻は、ムン家で行われた婚儀に招かれた人々の前にその姿を現した。婚儀ゆえの着飾った姿ではあったが、その素の美しさは誰にも一目でわかるほどだった。伏し目がちなのに大きいと分かる目、伏し目故分かる長いまつ毛、白粉のノリが良いのは肌自身が白く美しいからに他ならない。形よい鼻、丸みを帯びた、今日は紅をはっきりと差している小さな唇。手を取った花婿の顔を見上げたその横顔は、絵画のように列席者の目に映ったという。

 

 婚儀を挙げるときには、花嫁は娘としての教育が行き届いていて、夫となる人をたて、支え、貞淑で大人しい、などとまことしやかに紹介される。だが、今回の花嫁は違った。一応娘らしい教育は身につけているが、才女の母親に似て大層頭が良く、兄たちの学ぶ場を好んでいた、字の美しさは母や母の弟である叔父譲りだ、などと付け加えられた。そんなものは女人には必要ないだろう、花婿に生意気な口を利くのではないか、などとひそやかに話がされているときに、花婿が笑った。

 

 「夫婦で様々なことを話し合えるだろうことがうれしいのですよ。それに、俺は・・・学問ではなかなか誰にも引けはとらないと思うのです。」

 

 皆黙った。花婿は父親と同様、小科大科とも壮元。天下の秀才として一つも二つも抜きんでている若者なのだ。

 

 花婿の父として席についているイ・ソンジュンも笑顔だった。稀に見る、と言ってもいいほど。

 

 「幼いころから挨拶に出てきてくれるかわいらしい娘ごが、素晴らしい女人だと思うムン家の奥方に育てられているのを見てきたのだ。ようやく婚儀に頷いていただいた。礼を言わねばならないのはこちらなのだよ、ムン家の宝物を頂いてしまった。」

 

 お前は精進するのだ、と花婿に向かって言う左議政に、もう誰も何も文句は言えなかった。

 

 「コロ~!寂しくなるなあ!」

 

 国一の商人ク・ヨンハが絡んでいる。うるせえ、と祝いの酒を煽った花嫁の父は、に、と唇を片方上げた。

 

 「寂しくはなるが、俺には妻がいるからな。」

 

 惚気やがった!とヨンハが騒ぐ。笑い声がおこる。そのざわめきの中でジェシンが呟いたことを聞き取ったのは、傍にいた親友二人だけだっただろう。

 

 花は種を残して咲き続けるんだ。ユニの想いを子供たちが繋いでいってくれる、今日は良き日だ。

 

 

 いつの間にか花嫁は席から去っていた。これから三日。花婿はムン家に通う。そしてその数日後、イ家は花嫁を盛大に迎え入れるのだ。オシドリを絵にかいたような夫婦の娘が来てくれるのだ。若き次期当主に寄り添うことを誰よりも知っている娘だ。花嫁修業など関係ない事を証明してくれたのは、誰でもない花嫁の母親だ。ムン家が栄えたように、イ家も栄えるだろう。

 

 現当主イ・ソンジュンが屋敷の者たちにそう訓示したのは縁談が決まったすぐ後。花嫁は望まれて望まれて嫁ぐのだ。

 

 誰よりも、花婿が望んだ縁。またしばらくして花婿も席から去っていた。宴は夜通し続く。しみじみとソンジュンが杯を干す。ジェシンがその杯を満たした。ヨンハが隣でほほ笑む。

 

 すべては彼女が・・・キム・ユニがつなげてくれた縁。その不思議と喜びを、三人は賑やかな宴の席で、ひっそりと交わした。

 

 

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