それからの成均館 -12ページ目

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「お命が危ぶまれるほどに高熱が続いたので、ご親戚が訊ねてこられていたのでございます。縁戚の多いお方じゃあございません。そのうちのお二方がご相談相手なのか何度か出入りしておられました。そうしたらある夜、お・・・怖気をふるうよな恐ろしい叫び声が村中に響きまして・・・。」

 

 村の男は思い出したのか真っ青になってぶるぶると震えた。

 

 何人かの村人は飛び出して行って周りを警戒した。今話をしている村人もその一人だった。明かりがともっているのは村の長である両班の屋敷だけ。村の男たちが持つ頼りない松明の灯では、何の異変も見つけることはできなかった。

 

 「次の日の朝、仕事に行こうと・・・おいらは人参もですが普段はお屋敷の畑の小作もしておりますが・・・他の小作達もあたりをうかがいながら畑仕事をしようとしていましたら、親戚のお方の使用人が真っ白な顔でお屋敷から出て行ったんです。知り合いなんで事情を聞こうと近づくと、そこの跡取り様が馬でやってこられましてね・・・ものすごく怖い顔で引きずるようにして連れて帰られたんです。その時、一緒にいた奴が、その使用人に血がついてたと・・・。恐る恐る屋敷の周りを三人程で見回ってみたんですよう・・・そうしたら坊ちゃんが・・・裏の井戸のところでざぶざぶと何かを洗ってるのが穴から見えて・・・。」

 

 それが血まみれの衣服だったのだという。

 

 前日屋敷に来た親戚の者が屋敷を出ていったのを見たものはいない。恐ろしい叫び声。血まみれの服。事件性しか思い浮かばない。

 

 もう一人の親戚がやってきて、入ったと思ったらすぐに出てきた。

 

 だめだ、手に負えない。

 

 そう言って逃げるように去っていった。

 

 その後、血の付いたものを洗うその屋敷の坊ちゃんの姿は見なくなったが、毎朝屋敷の裏手の塀の下から鉄臭い水が流れ出て黒っぽく染みを作り、時に唸り声が聞こえる。何とかしてもらおうと親戚の家に行くと、「無理だ。何ともならない。儂は関係ない。」と一つには拒否され、もう一軒の親戚・・・使用人が真っ白な顔で出てきた・・・の屋敷は。

 

 「空?」

 

 「はい・・・人も家財も何もかもなくなっておりましたです・・・。」

 

 多くはない村人も、治めるものが乱心したようだという事に怯えて、少しずつ村から出始めた。跡取りはようやく12,3歳。病弱だと皆知っていた。井戸で衣服を洗う姿を見て以降、誰も彼が出てきたのを確認できていない。余りの衝撃で寝込んだのではないか。あれは誰の血なんだ。ご当主様は人参の畑を見回る時に必ず槍を持っておられた。振り回されてご親戚が大けがをしたんだ、そうだ、ご乱心されたんだ熱のせいで。

 

 誰かが言いだせば一気にそれが信ぴょう性を増し、人に害をなす乱心に怯えた。元から少し山の上の方にある屋敷なので、屋敷に近い家の者から静かに逃げ出していった。残っているのはふもとに近い方の家の奴らだけだろう、と村人は言った。

 

 「その屋敷には誰が住んでいた?両班の家族だけか?」

 

 「質素にお暮らしでしたので、使用人はいませんでしたよ・・・。ご当主様、奥様、お嬢様、坊ちゃん・・・。」

 

 「その四名・・・洗い物をしていた子息以外にお前はその後誰かを見たか?」

 

 村人の口がぽっかりと開いた。

 

 「ど・・・どちらに行かれたんでしょう・・・槍を振り回す人の傍にいたら・・・。」

 

 ジェシンは顎を撫でた。まだまばらな髭が掌を刺す。

 

 「一族四名が行方不明、か・・・。」

 

 

 てめえ、とジェシンは残ったヨンハに呼び掛けた。

 

 「あいつの話をどこまで信じる?」

 

 ジェシンの手には戸籍の写しがある。それは今渦中の家族のもの。

 

 キム・ジソン、妻チェ氏、娘ユニ、息子ユンシク

 

 並ぶ名を眺めながら問うジェシンに、ヨンハは首を傾げた。

 

 「信じるも何も、俺の親父の商売相手と連絡はとれなくなっているんだ。何かがあったのは確かだろ?」

 

 「だが、全て憶測だ。当主が高熱を発したとはいえ、誰かが槍を振り回したのを見たわけじゃねえ。恐怖で描いた妄想だ、今の段階じゃあ。」

 

 次の日、戻ってきた部下の報告に、ジェシンは立ち上がった。

 

 「行くしかねえか。これは・・・ちょっと嫌な感じがする。」

 

 

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