それからの成均館 -11ページ目

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 部下の報告では、県庁の県令はちらっとだけ出てきて、何も知らない、と言い放ったそうだ。それだけで引っ込んでしまった。嫌な感じを受けた部下は、手ぶらで戻るとどやされる、と言い訳して何人かの下っ端役人にも聞いて回った。皆、何か言いたそうにしながら口をつぐむ。一人は、ここの所県令様がイライラしておられるから、と囁いた。もう一人は、こちらに来てから県令様が仲良くされていた家の者と連絡がつかなくなったようだ、と漏らした。それは、調べに来たその村の長のキム氏か、と尋ねれば、違う、その親戚だと思う、と曖昧に濁してそれ以上は言わなかった。部下は、一応その村まで足を延ばしてから戻ってきたのだが、人の気配がなく、不気味だったという事だった。

 

 「キム氏は、高熱を理由に何か罠にはめられそうになって激昂したのかもしれない。」

 

 ジェシンはヨンハにそう言って都を発った。北に丸一日かかっていかねばならない。捕り方の代わりに兵も連れて行ったのは、国境に近いからだ。ジェシンが恐れているのはそこだった。

 

 民が自ら国境を越え、こちらの身分の上のものの不備を言いふらされたら、それこそ付け込まれて国境を大きく削られることにもなりかねない。今、清はその力を弱めていて、北方の民族からの攻撃が頻繁にあるという。その矛先がこちらに向かいかねない。実際、小競り合いは時に起こっているのだ。

 

 村人から聞き出した親戚の名も屋敷のある場所も特定している。一人は同じ姓のキム氏、一人はハ氏。一家全員が逐電したと思われるのは、ハ氏の方だと村人は言っていた。

 

 「そんなきな臭い話か?単純に親戚だから起こる相続の争いじゃないの?あそこの家は朝鮮ニンジンの栽培を一手に引き受けていた家だ。毎年確実な量が取れるわけじゃないが、採れた年は高額だから儲けも多い。一族の長を取って代わろうと思っている奴だったのかもしれないよ。」

 

 ヨンハはそう言ったが、大いにある話ではある。取って代わって?

 

 「取って代わってさ、うちとか他の商団でもいいけど国の商人に卸すんじゃなくって、直接・・・他国に売りさばこう、っていう奴だったかもしれないじゃないか。」

 

 確かにとジェシンは納得したが、村が一つつぶれかけているわけだから、大事ではあるのだ。結局兵を連れて行くことにはなった。

 

 県庁にはわざと寄らなかった。ジェシンは若手官吏ではあるが、既に吏曹の副官の立場に出世をしていたし、官位は登用試験である大科で上位である甲科の成績・・・三位で合格しているため、最初から高いのだ。自分の父親に近い年齢の県令より地位が高い。そんな人に、わざとらしく歓待されるのがまず面倒くさい。そして、今回は少々・・・その県令にも何かしらの関与があるのではないかという疑いもある、というのが理由。遠巻きに様子を見てやろうと思って無視して通り過ぎたのだ。

 

 「覗いてこい。」

 

 ジェシンに命じられて、兵たちは二人組でばらけ、家々を覗いて回った。どの家も明らかに空き家になっているという。生活用品が亡くなっているのと、食料品なども綺麗にない状態。意志をもって家を捨てた、そして昨日今日の話ではない、というのが分かる。ヨンハが連れてきた村人の言う時期とも一致する。

 

 「まあ・・・あそこに向かうしかねえなあ・・・。」

 

 細い道をたどった先に見える、山の斜面に段差を利用して建てられている屋敷を見上げた。そこが村長であるキム氏の屋敷なのだ。

 

 山道である上に細いので、ジェシンも馬を降り、兵三人に番をさせて残りを引き連れて登っていった。戦に行くわけではなく、犯罪の調査が本筋だから、携行人数は10人だ。ジェシンと、7名の兵は静かに山道を登り、三人に表門を見張らせ、四人を引き連れて裏手に木々を縫いながら回っていった。これもヨンハの所に来た村人に略図を描かせて分かっていたことだ。

 

 裏手にある低い塀、そして人が一人通れる門扉。しばらくうかがっていると、人の気配。

 

 水音がした。 

 

 

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