蔵の奥のお姫様 その9 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「助かりました・・・。」

 

 ユンシクがコメの入った鉄なべに分量の水を入れると、水がめの水は空に近くなっていた。そこそこ・・・ユンシクの腰近くまである甕だというのにだ。ジェシンは桶に水を汲んで何度も往復し、甕に水を満たした。その間、他の鍋にも水を入れて汁を作っていたりしたユンシクは、火の番をしていたこともあって、真っ赤な顔をしていた。

 

 「何度も行き来するのは面倒な仕事だが、力はそんなにいらねえな。」

 

 ジェシンがそう言うと、ユンシクは信じられないとでも言うように目を見開いた。

 

 「水の入った桶って、重たいじゃないですか。」

 

 「あ?桶の一杯ぐらいは大したことねえ。もう一つ桶がありゃ、倍の速さで満タンにしてやれたんだが。」

 

 「ええ・・・わ・・・僕にはできない・・・。」

 

 「まあ、その細っこい腕じゃなあ・・・。」

 

 厨の仕事を一緒にしたような気分になって、ジェシンはかなりユンシクに気を許していた。水汲みをしながら見ていた彼は、懸命にふうふう息を吹いて火の番をし、時に粥の具合を覗くために開けるふたから噴き出る湯気にあぶられて、頬はつやつやと光っていた。そんな頬の様子と細い腕が本当に彼を年齢上に幼く見させて、つい気軽になったのだろう。

 

 「だだって僕・・・今は逆ですけど・・・僕が床の中で世話されることの方が多いんです。鍛えるなんてしたことないし・・・。」

 

 ジェシンは亡き兄の姿を思い出した。いわれなき罪をかぶせられて、冤罪だったと分かった時には流刑先で獄死していた兄。兄も体は弱かった。ムン家の男は背が高くなるのだが、筋力が着かないと嘆いていたのが懐かしく思い出される。鍛えるよりも、病まないために体を休めることを優先していた兄。大人の体故の太い筋はあったが、ジェシンのように盛り上がることなどなかったほっそりした体つきだった。

 

 汁はできたのか竈から外され、そこには間口の広がった鉄なべが載せられた。キムチが壺から出されて板の上で刻まれており、その鉄板の上で焼かれ始める。香ばしい香りがして着たら、そこに投入されたのは、鉢に既に準備されていた鶏卵の溶いたもの。

 

 「卵なぞ、どこから出てきた・・・?」

 

 「我が家は端っこの方に鶏小屋があります。こんな山の中ですよ、ある程度は食べる物を自分で用意できる状態でないと。」

 

 「道はふもとからつながってるじゃないか。」

 

 「こんな山道、大雨や大雪のせいで何日も足を踏み出せない日があります。それに、欲しいと思う時に欲しいものがすぐに手に入るわけではないんです。ふもとの村は田のものは租税のために触れないし、贖いに行くにしても、ほら、お医師さまが来られた街のように、少々距離があるじゃないですか。」

 

 「そんなもんか。馬でも遠いか。」

 

 「うちは鶏はいても馬はいないんです。」

 

 ユンシクがそう言うと、ジェシンとユンシクは同時に笑いだしてしまった。なんだこの、仲の良い友人のようなやりとりは。

 

 「あはは・・・しゃべりながら作ったから、味は知りませんよ、好き嫌いしないでくださいね。」

 

 軽口をたたいている間にできたキムチの卵炒め。小さな椀に盛りつけられて行く。カシュカシュと鉄鍋の底をこする音が心地いい。

 

 ユンシクは案外手際が良かった。戸棚の中から膳を出してきて、既に外にある家族用のものとあわせて板間に並べた。お菜の小鉢を置き、大ぶりの椀に汁をよそった。最後に粥をくるくるとかきまぜながらよそう。粥には何かが混ざっているのが目に入った。

 

 「干し肉です。時々猟師が撃った獣の内、兎とか山鳩なんかの肉を分けてもらっておくんです。他の獣の肉はちょっと匂いが・・・母がダメで。」

 

 お嫌いですか、と今更ながらに聞くユンシクに、ジェシンは笑った。

 

 「肉は兵は好きな奴が多い。俺も今まで食えなかったものはない。」

 

 安心したように笑うユンシクは、次々に粥をよそっていく。椀に少なめの量に準備されたのは母親と姉娘用だろう。ジェシン達の椀にはたっぷりとよそわれていた。

 

 「あの、先に食べていてください。僕、母と姉に運んできます。自力で食べられますから、渡したらすぐに戻ってきますので・・・。」

 

 そう言って膳を一膳一膳運んで行くのを、ジェシンはぼんやりと見届けていた。

 

 

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