この世の華 その42 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 その頃にはヨンハとソンジュンが時折ムン家を訪ねてくるようになっていた。圧倒的にヨンハの方が多かったのは仕方がない。ソンジュンは王宮に入ってしまうとなかなか出てこれなくなるのだ。各庁の者たちとの打ち合わせ、若い王の相談相手、朝議。非番の日もあってないようなもの。ヨンハも忙しいが、時間が少しでもできればうろうろできるのが宮勤めとは違うところだと笑っていた。

 

 二人は、ちゃんとジェシンに伺いを立ててから訪問を再開した。ユニがユンシクの死を受け入れて落ち着くのを待ってくれたのだ。二人にとってもユンシクの死は受け入れがたいものだったはずだ。特にソンジュンは、ユニとユンシクが入れ替わった後も、ユンシクのまっすぐな人となりを素直に受け入れ、親友となっていた。ソンジュンが弱音を吐けるのはユンシクの前だけだっただろう、とジェシンは睨んでいる。ジェシンには相談はしても、弱音を吐く男ではなかったのだ、ソンジュンは。ソンジュンにとってジェシンは同格の競争相手であり、そして、初恋の女人を奪っていった相手なのだから。仲間ではあるが、そういう関係でもあったから、弱音など吐くわけにはいかなかっただろう。

 

 ヨンハは、商売がてら行く先で手にいれたとばかりに土産をユニに持ってくる。俺の妻だと何度言っても、簪や反物まで持ち込むのだ。「テムルがかわいらしくしてくれてるのを見るのが好きなんだよなあ。」などと堂々と言う。それが三度に一度ぐらいなものだからつい受け取ってしまうのだ。あとは無難に菓子を持ってくるから。

 

 ヨンハはユンシクの死以前と同じように飄々とやってきて、ユニに面白そうだからと本を一冊、そして菓子の箱を渡した。ビョクスが心配しているから次は遣いをさせるな、顔を見せてやってくれよ、などと話し、ついでに行って来た先の妓楼の話などをしてユニを笑わせた。けれど帰り際にこういった。

 

 「そうそう。その菓子さ、ユンシク君も好きだったから、キム家にも届けさせてるよ。」

 

 そしてユニの手の甲をぽんぽん、と叩いてほほ笑んだのだ。

 

 「ああ綺麗だね、テムルは。ユンシク君もきれいな姉上が自慢だったよ。テムルは弟孝行だ。」

 

 ヨンハが帰った後ユニはちょっとだけ泣いていたけれど、それでもヨンハの言葉がうれしかったらしく、次の日から菓子を大事に食べていた。ただ、ユニを泣かせたので、次に来た時にヨンハには一発入れておいたが、それはユニには気づかれていない。

 

 ソンジュンは非番になったからとふらりとやってきた。その時にはまだ世子の漢詩の講師への命はムン家には届いていなかったが、ソンジュンは見舞いがてらそれをほのめかしにも来ていた。ジェシンにではなく、ユニに。

 

 「あのね、君にお願いがあるんだけど・・・。」

 

 「なあに、ソンジュン?」

 

 「先輩をね、ちょっとお借りすると思うんだよ。あっ・・・遠くに行くんじゃないよ、もしかしたら世子さまの教育のことでご助力を頂かなきゃいけなくなるかもしれないんだよ・・・。」

 

 せっかく夫婦水入らずの所悪いんだけど、と申し訳なさそうに言っているが、全然そう思っていないのは分かっているとばかりにジェシンはソンジュンを睨みつけた。なんだそのヘンな役目は、てめえ勝手に俺の名を出したんじゃねえだろうなあ?

 

 「旦那様がお役に立つことなの?」

 

 「うん。それもぜひ先輩でないと、っていう事なんだよね。」

 

 「まあ・・・ソンジュンも助かるのよね?」

 

 「そうなんだよ。先輩が固辞したら、俺が先輩を説得しなきゃいけなくなるんだよ、絶対。それに俺も、先輩が適任だと思うんだよ。」

 

 「私もね、私のせいで旦那様から仕事を取り上げちゃった気がして申し訳なかったの・・・。」

 

 いやそれは考え違いだな、とジェシンは声を大にして言いたいし、実際ソンジュンが帰ったあとには言った。

 

 「先輩は自分で望んで君に付き添うことに決めたんだから、君が気に病むことはないと思うよ。」

 

 勝手に推測すんな、だがあってるけどな!とジェシンは腕を組んでふんぞり返って聞いているしかない。何しろ久しぶりの親友との会話なのだ。ユニが女人であっても、人の妻になっても、親友はやめない、とソンジュンには昔から宣言されていてうっかり許してしまったものだから、今更撤回できないのだ。

 

 「でも無理があったり、君が辛かったりしたら断わってもいいんだよ。でも、王宮から打診が来たら、考えてはみてほしいし、先輩の力が必要だと思ったら、ぜひ先輩の背中を押してほしいんだ。」

 

 何しろ、とソンジュンは意味ありげにジェシンをちらりと見た後、何でもない、とまたユニに笑顔を向けていた。

 

 言いたいことなんぞ分かるぞ、とジェシンはふんぞり返ったまま憮然とした。何しろ、俺が元々怠けものだって言いたいんだろ、とソンジュンの言葉の続きを勝手に読んでしまったものだから。

 

 

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