こちら月ウサギ配送サービス~夜逃げ承ります~ その51 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ヨガ教師は荷物を運びこみ、家電を配線するジェシンやドヒャンアジョシの傍で、コトンとバッグからフォトフレームを出した。笑顔の中年女性が映っている。

 

 「ママ、新しい私のお城よ。」

 

 まだ何も載っていないキッチンの流しの上に設けられた棚にその写真を置いた彼女に、ユニがお母様ですか、と無邪気に聞いた。

 

 「そうなの。私が高校生の時に亡くなったの・・・もう10年経つわ。」

 

 そうなんですか、とユニは言って、帽子を取ってぺこりと写真に向かって会釈した。それを見て、ヨガ教師はありがとう、と目を細めた。

 

 「あなたはご両親はご健在なのかしら?」

 

 「いえ、父はもう数年前に亡くなっています。10年にはならないかな・・・。あ、母は元気ですよ!」

 

 少しすまなさそうな顔をしたヨガ教師に、ユニは明るく答えた。

 

 「そう。それは何よりだわ。私も父は健在なの。時々は会うんだけど・・・ご同居?」

 

 「ええ。私は母と弟と三人で。」

 

 「うちはね、私がこうやって独立して仕事を始めてから、父が再婚したの。いい方なのよ、お相手は・・・だけどね、私の母じゃないし、今の実家は私がいたころの実家じゃなくなっているから、法事以外では帰らないの。」

 

 「遠いんですか、ご実家?」

 

 「いいえ。ソウル市内よ。」

 

 「それじゃ、会おうと思ったらすぐ会えるし、行こうと思ったらすぐいけますね。だから今はいいんじゃないですか。」

 

 ユニは冷蔵庫の梱包を外しながら笑った。

 

 「他人事みたいに言ってるように思われるかもしれませんが、私にとっても父はたった一人で、母もそうです。10数年愛し育ててもらったんですもの、大事な親であることは亡くなったからと言って薄れるものではないですよね。今でも父の膝の上の暖かさを思い出しますもの。」

 

 「そうなの。母と一緒に出掛けたことや、父の帰りを待ちながら一緒に夕食を作った事、宿題をしないで叱られたことだって昨日のことみたいに思い出すわ。」

 

 「私は母が再婚云々はなかったのでわからない心情もありますが、もしお父様や再婚相手の方が家族関係を無理強いしないのであれば今の距離感が合っているのかもしれないですね。ご法事は・・・お母様のですか?」

 

 「そうなの。いい方なのは本当に分かっていて、母の法事もきちんと行ってくれるの。だからありがたいんだけど、それでもどこか遠慮もあるし、今の実家の様子を見てもやもやすることもあるし、そんな感情をなるべく見せたくないと思ったら、頻繁に会う状態になるのはちょっと、と思うのよね。」

 

 ユニは冷蔵庫がむき出しになると、ちゃんと通電していることを確かめ、ヨガ教師にも見せた。しゃべりながら。ソンジュンは残りの荷を運びにトラックに戻りながら、横目でそれを見聞きして感心した。

 

 人を傷つけない、けれど当たり障りではない返答というのは難しいものだ。ユニが今ヨガ教師と行っている会話は、ソンジュンには絶対にできない。それは親を片方ずつ亡くしている同士だからではない、相手に共感したうえで、第三者としての意見を言えるだけの度量がユニにはあるという事だ。そしてその会話に応じることのできるヨガ教師も。共通しているのは、相手を尊重する意識だ。

 

 「こっちの棚も設置できましたよ!お母さんを移さなくていいかな?!」

 

 ソンジュンが箱を抱えて戻ってきたとき、ドヒャンが明るく声を掛けていた。ドヒャンは家中の家電の配線を請け負ってくれていたので、ずっと室内で作業をしていたのだ。配線が終ったので、棚を頼まれた位置に移動させたようだった。

 

 「棚がいいかしら。それとももっと低い位置がいいかしら。」

 

 「目線が合うのもいいだろうねえ。だが、暫く片付けするでしょうが、埃っぽい間は上の方にいてもらったらどうかな。」

 

 「そうかも!」

 

 「アジョシ、かしこい~。」

 

 ユニとヨガ教師を納得させ褒められて、ドヒャンはわははと機嫌よく笑っていた。

 

 「俺はもう親はいないからね。裕福でない両親だったけど、今じゃいい思い出しか残ってないさ。そんなもんだ、親ってのは。」

 

 さて、とドヒャンは家主に電化製品が正しく動くことを全部見せて回った。冷蔵庫以外。

 

 ソンジュンは箱をそっと置き、保護用のマットを巻いているジェシンを見た。ジェシンは薄く笑っていた。警察官まで動員しても引っ越し作業にユニが出る意味が、少しわかったような気がした。 

 

 

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