こちら月ウサギ配送サービス~夜逃げ承ります~ その50 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「確かにここではオンラインで映すわけにはいかなかったでしょうね。」

 

 見積もりもオンラインでしたのだが、実際にヨガ教師の部屋はワンルームで狭く、どんなに生活感をなくすよう物を少なくしていても、何かが背後に映りこんでしまうだろう。元々はテナントの小さな一室で、直接の教室も開催していたのだが、昨今の感染症の時期に合わせてオンラインに変えていくと、そちらの方が人気となったのだという。テナントはスタジオがわりに使い続けていたが、教室を開かないならば無駄な出費だ。それなら一室を仕事部屋にしてオンライン教室はそこで行い、直接指導はイベントとして定期的に行い、その時々に会場を借りることに方針を転換したらすっきりした、と笑っている。

 

 「ミニマリストを気取ってみたんだけど、元々そっちは性に合わないみたいで、お洋服も欲しいし、かわいいインテリアも欲しいし、そうなったらこの部屋じゃね。」

 

 と、あらかたは綺麗に箱詰めしてくれていたヨガ教師の引っ越しは順調に進んだ。家電をドヒャンアジョシの指導の下取り外して包み、トラックに積み込む。一番大きな家具はソファベッドだった。ユニは興味津々にその梱包を見ていてヨガ教師に笑われていた。

 

 「便利ですか?」

 

 「狭いからベッドとソファを一緒に置けないからとった苦肉の策だったんですけど、使い勝手はよかったですよ。座れるし眠れるし。」

 

 「先生!事務所のソファ、これにしたらどう?」

 

 「そんなことしてみろ。俺は一日中昼寝する自信がある。」

 

 「それは昼寝とは言わないわ!」

 

 梱包したソファベッドはジェシンとソンジュンで運んだ。ユニは照明を外すドヒャンアジョシの補佐で残すのだ。玄関と狭いキッチンスペースは埋め込み型の照明だが、部屋の照明は自前なのだという事で、持っていく。箱と梱包材を用意しているのを見ながらソファを運び出すと、トラックの傍に人影があった。警察官だった。

 

 「ご苦労様です。この度はありがとうございます。」

 

 ジェシンはソファをトラックにとりあえず乗せると、帽子を取り丁寧に頭を下げた。ムン・ジェシンです、と名乗るジェシンに、警官二人が慌てて頭を下げ返す。

 

 仕方がないかな、とソンジュンは思う。ジェシンの父は警察官のトップに君臨する立場なのだ。その息子に対して雑な態度はとれないだろう。その上先に丁寧にあいさつされてしまったのだ。

 

 ソンジュンにも覚えがある居心地悪いこの空気。ソンジュンの父の部下や仕事関係者も、そろってソンジュンに対してすら丁寧だった。気持ち悪いぐらいに。偉いのは・・・地位がだが・・・父だけなのだ。ソンジュンの母もソンジュンも、ちっとも偉くはない。ただ地位のある人の家族なだけだ。しかし世間はそれにこそ価値があるように思うらしい。

 

 こちらの作業は間もなく終わります。次の所に運び込みます。はい。何も不審なことはなかったですか。よかったです。それが一番なんで。え?防犯カメラがあった?どこにですか。ああ、あの新しいマンションの。ご協力願えるんですか、助かります。管理会社に礼に伺いますよ。そんな事をぼそぼそとジェシンと警官は話していた。その間にユニとドヒャンが外した照明を持ってきて、それが最後の荷物だった。ドヒャンとトラックの荷台に上がり、ソファを所定の位置に納め、照明の入った箱を積む。ロープで固定して荷積みは終わった。

 

 ヨガ教師は原付バイクで新居に向かうという。今回は金のやりとりがないので楽だった。警察官の傍にはジェシンと一緒にユニもいた。もしその際にはご協力をお願いします、と警察官はユニにも丁寧に頭を下げて去っていった。

 

 「さて!行くか!」

 

 ドヒャンの声掛けで、皆我に返ってトラックに乗り込む。行き先は車で10分もあれば着くところだ。少々繁華なこの地区を出たくないのだとヨガ教師は言っていた。便利だし、友達もいるし、と。家族のことは何一つ言わなかった。聞く必要もないが、こじれた家族関係のことに巻き込まれている身としては、気にならなくもないな、とソンジュンは席に小さく縮こまりながら考えた。

 

 

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