㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「悪かったけど、俺、まだ着替えてなかったんだよ。また着替えに戻ってくるのだるいだろ。」
「若いのに何言ってんのさ先生!あたしなんてさ、もうマスターにこき使われて20年だよ、いくつになったか忘れたぐらいなのに、こうやって出前させられるんだからね!アジュマウーバーだよ!」
アジュマはテキパキとテーブルにトレーとポットを置き、トレーの覆いを外した。そこには湯気の立つピザ、トルティーヤからはタコスだろう赤いものが覗き、なぜかその端にはキンパが海苔の黒々とした照りを光らせている。
「そのキンパはさ、あたしたちの賄の残りなんだよ。沢山作りすぎて余っちゃって。サービスサービス。」
「おう、サンキュ。じゃあ、金は頼むな。」
「ハイハイ。預かってるところからとって、領収書入れとくね、先生。」
おう、と返すジェシンの声と同時に、ソンジュンはつい「先生・・・?」
と呟いてしまった。案外大きな音量だったようで、アジュマはソンジュンの方を向いて、呆れたような顔をした。常識を知らない子供を見るかのように。
「おや?知らないのかい?先生は先生だよ。弁護士先生!」
アジュマが意気揚々と出ていったあと、びっくりしたソンジュンと、「お前言ってなかったのかよ」とネクタイを緩く結びながらヨンハに文句を言うジェシン、「言ってなかったっけ?」と明らかにからかいが成功して喜んでいる声音の、勝手に机の引き出しを開けて紙コップを出しているヨンハが残された。
「聞いていませんでした。という事は・・・兼業されているわけですか?」
「まあそこは。ちょっと俺が思いついたビジネスが金になるか試してもらったっていう感じかな。」
ヨンハはソファに座ると、カップを並べてポットからコーヒーを注いだ。いい香りが漂う。ただでもピザのチーズの香りがおいしそうなのに、軽くランチをしてきたはずのソンジュンも少しばかり小腹が空いたような感じがした。何だかどうでもよくなって、それでも気になるから、と話を聞いてやる、と決めて、ソンジュンはヨンハの隣に座った。
ジェシンは、ネクタイを下の方で結びかけの状態にして、下の方にタイピンをきゅ、と差し込み、揺れて邪魔にならないように留めた。そんな仕草が、スーツを着慣れている感じを醸し出す。その状態でどっかと一人掛けのソファに座ったジェシンは、トレーから大皿のピザ、これまたぎゅうぎゅうにトルティーヤとキンパが乗った皿を取り出して並べ、お前らも食え、と言いながらピザをひと切れとった。
「マスターのピザ、美味いぜ。それにこんなに食いきれねえ。マスター、コーヒーの量を聞いたら、大体の人数分で食い物をよこしてくれるから。」
「前から気になってたんだけど、支払いはツケなの?」
「ツケ、というか、一回一回払うの面倒だから、いくらかまとまった金を預けてる。下の事務所に来客がある時、コーヒー頼むこともあるしな。で、店に行ったときに領収書回収して、減った金を足しとくことにしてる。」
「へえ。信用あるんだな、どっちも。」
「まあ、そこは付き合いの長さだろ。って言っても俺だって三年ぐらいだけどよ。」
ヨンハもピザを取り、ソンジュンにも取るよう皿を回してきた。温かいうちがうまい、と勧めるジェシンの言葉に甘えて、ソンジュンも一切れ取り口にすると、お勧めなだけあり、ピザ生地のサクッとした歯ごたえと、濃厚なソースとチーズの香りが口いっぱいに広がった。
「じゃなくて!」
飲み込んでから小さく叫ぶと、ヨンハが笑った。コーヒーを一口飲んでからキンパを手づかみで取り、それを眺めながらまた笑う。
「悪い悪い。ちゃんと説明するから、食いながら聞いて。」
「当たり前だ。俺のことを知らないのはいいとしても、事情を知らずに来てるとは思わねえだろうが。」
ジェシンは苦情を言いながらトルティーヤをとった。よく考えたら妙な取り合わせの料理だな、と思いながら、ソンジュンはコーヒーを飲む。芳醇な香りが、マスターと呼ばれるこの店の店主の腕のほどを教えてきて、ソンジュンは少し落ち着いた。
「悪かったって!はは。何から話そうか。えっとさ、俺とコロのなれそめはおいおい話すとして・・・。」
「そういう前置きがうざいんだ、お前は・・・。」
ジェシンの再度の苦情もものともせず、ヨンハはにこにこと話し出した。