こちら月ウサギ配送サービス~夜逃げ承ります~ その6 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 覗き込んだ部屋は広くはなかった。だが、隅っこにパイプベッドが置いてあり、布団もセットされていて、一見小さな寝室のように見えた。しかし、そのベッドの足元から今ソンジュンが覗き込んでいるドアの横までの短い壁際に沿ってパイプハンガーが置かれ、そこには見たことのあるマークが背中に入った作業着のジャンパーが数枚かけられているのが見えた。

 

 「これ・・・。」

 

 ソンジュンの目線を追って、ヨンハはにっと笑った。

 

 「うちのロゴとはちょっと違いますよね・・・。」

 

 「『月』がつくからな!」

 

 『ウサギ配送サービス』の作業着の背中には、大きな緑で太く描かれた円の中に、大きく口を開けて笑っているウサギの顔がどん、と鎮座しているものだ。地の色がオレンジ、緑の円、白いウサギというなかなかに目立つデザイン。ちなみになぜウサギが社の名前とイメージアニマルになったかというと、足の速いウサギの印象にちなんで、作業の速さ、引っ越し先に到着する速さを象徴するものとして採用されたらしい。実際にこの作業着と、トラックの荷台の側面に大きく書かれたウサギのマークは、なかなかに目立つ。ソンジュンも数回この作業着を着て現場で段ボールを担いだ。

 

 だが、この部屋にあるジャンパーは、地が黒だった。そして黒字に映えるわけがない、濃い銀色でウサギも円も描かれている。角度によって鈍く光り、濃淡でようやく柄が分かる、というぐらい。

 

 「ああ・・・この円が月に見立てられているわけですね。」

 

 合点がいって感心したソンジュンは、夜に引っ越しをするって本当なんだ、と感心した。ジャンパーの向こうには丈の長さの違うズボンが、これまた数本。下を見ると、パイプハンガーの足元に黒いデッキシューズのような靴がこれまた様々なサイズで5,6足。

 

 そのパイプハンガーの陰で、ジェシンは着替えていた。小さな窓から入る光で部屋は薄く明るかったからか、照明をつけずに着替えていたので、すぐそばにあるジャンパーなどに目をとられてあまり中止せずにいた。着替えている人間を凝視するのもヘンではあるし。それでも狭い部屋だからどうしても視線は行く。そしてちょっと驚いた。

 

 しゅ、という音と共に袖を通したのは、このウサギマークのジャンパーではなく、カッターシャツだった。皺ひとつなくアイロンの当たった、薄いブルーの色が明るかったため目が行ったのだ。

 

 「あ・・・約束って、営業にでも行かれるんですか・・・?」

 

 「あ?営業?」

 

 カッターシャツのボタンを留めながら、ジェシンはハンガーの陰から出てきた。と言っても二歩だけだが。ソファで仮眠していたからか、裸足にスリッパなのが異質に見えるほど、ジェシンはすっきりとしたビジネススタイルに変身していた。ボタンを留めたシャツの裾をスラックスの中にしまい、ベルトをカチャカチャと嵌めてしまうと、ジェシンは、よ、と掛け声をかけて、ハンガーにつってあった紙袋に手を突っ込んだ。出した手には黒の靴下が握られている。それをもって、ベッドにドスンと腰掛けてかがみ、靴下を履いている姿を見ているソンジュンに答えをくれたのは、ヨンハだった。

 

 「営業じゃないよ。」

 

 端的にソンジュンが言ったことに対する答え。ジェシンは着替え続け、靴下を履き終わると、再びハンガーに近寄り、今度はかけられている衣服の間に手を突っ込んだ、と思うと衣擦れの音を立てて引き出したのはネクタイだった。襟を立ててネクタイを首にひっかけるだけひっかけ、また手を突っ込んだかと思うと、今度は上着を外して抱えると、

 

 「あっちの部屋に戻るぞ、野郎三人でこんな狭い部屋にいたら息が詰まる。」

 

 と言い放った。

 

 事務所に戻ると、ちょうどドアがノックされた。どうぞ!というジェシンの大声に、すぐにドアは空いた。

 

 「先生、二階にいてよ~!このビルエレベーターがないから、大変なんだからね!」

 

 文句を言いながら入ってきたエプロン姿のアジュマは、片手に保温ポットを提げ、もう片手にみっちりとラップのかかった四角いトレーを抱えていた。

 

 

 

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