恋人よ その32 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 少しだけ悩んだが、どうもユニの見ていた初夏の夢の続きを自分が見ている、と告げることにした。もうお互いの既視感や前世らしき夢については共有しているのだ。ジェシンがユニの夢の続きを見ているのは、もしかしたら話を聞いた影響なだけかもしれない。だが、なんとなく違う気もした。余りにもリアルで、そしてあまりにも自分の感情がそのままそこに在るようにしか思えなかったからだ。

 

 あの弓の大会でユニらしき儒生が負傷していたことを知り、その原因が誰かの卑怯なたくらみの性であることに憤怒した感情は、夢を見ている現実の自分も夢の中でリンクした。同じように憤りが沸き上がり、夢の中のジェシンが見つけたおそらく首謀者・・・現実の世界ではカン・テスという同級生の顔をしていた・・・を睨む視線まで共有していた。そして自然に、そう何の齟齬もなく浮かんだのだ。ハ・インスめ、と。カン・テスではなく、ハ・インス。今まで聞いたこともなく、周囲にもいないその名の出所は全くわからない。夢の中のジェシンが呟いたとしか思えないのに、現実の今の自分の中にっためらいもなくその名が浮かんだのだ。知っているカン・テスではなく、ハ・インス、と。

 

 

 「・・・え・・・サヨンも夢見始めたの・・・?」

 

 「も・・・って、ユニ、俺は続きっぽい感じの・・・。」

 

 「私も、最初に見た夢の続きを見てる・・・の・・・。」

 

 会ってジェシンが夢の話をすると、ユニはものすごく驚いた。最初にユニが見たのは、同じ格好をして先輩後輩として仲良くしている自分たちの夢なだけだった。其の夢の自分たちの行動から、ユニらしき儒生には姉がいて、その姉と儒生である弟の魂二人に現在のユニの魂は分かれているっぽい、というところまでだった。

 

 ジェシンは何回か其の時代設定の夢の続きらしきものを見る事、毎回同じぐらいの時刻に目が覚めることを話した。するとユニはため息をつき、私も、と言った。

 

 「夢の続きを見るの・・・何か・・・何か示唆されているのかと思うぐらいリアルだわ・・・。」

 

 ユニは少し怯えているように見えた。ジェシンはユニの肩を抱き、そっと引き寄せた。

 

 実はジェシンも少し考えてはいた。ユニの魂を持った儒生に向かう悪意は、あの夢で目の当たりにした、弓の弦に鮮明にこびりついた血の色、その血の色の原因となった、弦の繊維の中にねじ込まれた鋭い石や砂、植物のとげのような悪意の現物。夢の中のことのはずなのに、今のユニに向かっている悪意に思われて背筋が冷たくなった。それに、本当かどうかはわからないが、敵として認識した、ハ・インスと呼ばれている男の顔は、現実世界にいるジェシンの同級生とそっくりなのだ。どうしても、今と夢の世界が混同して行ってしまう。それをしないようにこの数年、そう既視感や夢を見始めてから気を付けていたのに、ここにきて、どうしようもないほど夢が自分たちを浸食しようとしてきている気がして、それが今の世界に影響するのではないか、本当になるのではないかという不安がどうしても湧くのだ。ユニもそうなのだろう。案の定ユニも、同じ不安を口にした。

 

 ユニが教えた夢の中身は、ジェシンが見たものとは違った。ジェシンは弓の大会についてを見たが、ユニが一番最近に見たのは、何だか球を打ち合いする大会なのだそうだ。

 

 「なんだそれ、クリケットか?」

 

 「クリケットってイギリスかどこかの・・・よね。馬に乗ってやる競技じゃなかった?」

 

 「馬に乗るな。」

 

 「じゃあ違うわ、自分の足で走るのよ。」

 

 「じゃあアイスじゃないホッケーみたいなもんだな。」

 

 そう、そんな感じ、とユニは笑った。少し気がほぐれたらしい。可愛い。ユニは笑っているのがいい。頬が少し染まって、あはは、と声を出して笑う。その明るい声音もユニの美しさの一つだ。笑い声だって色々ある。ジェシンはユニの笑い声から嫌な気分を感じたことなどない。人を馬鹿にしたり、人の不幸を笑ったりするような『嘲笑』と呼ばれる笑いはユニの中にないのだ。そう信じられるぐらい、ユニの笑い声は、楽しい、嬉しい、おかしい、そんないい気分の時に発せられるものだから。

 

 ああ、お前は変わらない。

 

 そう自分の胸のなかに響く声が聞こえた気がした。

 

 

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