天網 その41 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシンとヨンハの足の進みは、二人の杞憂・・・特にジェシンの杞憂のために早くなるばかりだった。

 

 「俺さあ、荷もあったしさ、10日かかって戻ってきたんだけど、木浦から。」

 

 「俺だって、あの足ののろい役人どもを引きずってたから8日ぐらいかかったぜ。」

 

 「・・・鬼だな、コロは・・・。」

 

 とにかく、このままだと半分ぐらいで木浦まで走りとおすんじゃないか、とヨンハが冗談交じりに言うと、何処かであいつらに会うだろ、とジェシンは何の迷いもなく言う。

 

 「キム・ユニを連れて、イ・ソンジュンが天下の大道を行かないわけがないだろう。一番危険がない道なんだから。」

 

 「それはトック爺だってそうするよ。分かってるって~。」

 

 罪びとじゃあるまいし、とヨンハは笑う。ユニは確かに家出をしたが、両班の女人が屋敷を飛び出すなんて外聞は確かに悪いかもしれないが、別に悪い事じゃない。体調が悪い妻を療養に出していた、なんていくらでも言い訳を作れるほど、イ家は豊かな家だ。その上若い夫が直々の出迎えなのだ。世間が何を誤解することもないだろう。

 

 ただ、だからこそ、彼らが何者かは周りにわかってしまうのだ。トック爺だってとる宿の者に言っているだろう。都で大層お偉い家の若旦那様と若奥様だ。失礼のないように丁重に丁重に。それがその宿のある狭い地域でだけのうわさ話で終わるのだとしても、たった一晩のことだったとしても、聞きつけたら、要らぬことを考える輩だっていないことはない。ちょっとお恵みを頂こう、などは時にヨンハやジェシンも経験がある。ましてや彼らに直に何らかの屈託がある者が知ったら。

 

 「ユン家の息子は、もう家から追い出されて在所へ送られたんだよな?」

 

 「カランから聞いたよ。カランが左議政様とユン家の当主に会った時には、もう息子と娘の処分は家で決められてその通りに行われてたらしい。息子は除籍して追放、娘は子を産んだら出家。」

 

 もう明日にも扶安に入ろうという前の晩のことだった。

 

 

 二人は扶安に到着すると、馬をク商団行きつけの宿に預け、近辺の寺について聞いてみた。宿の主によると、少し山間に差し掛かるところに数か所あるというが、それほど大きなものはないという。では最近、顔なじみのないものがやってきているといううわさは聞かないか、と質問を変えてみた。そこそこ大きな町だし、旅商人や役所もあるところだ。ただ、宿を営んでいるものは人を良く見ていることが多い。うわさ話も妓楼ほどではないが流れて来る。果たして宿の主は知っていた。

 

 小さいがこんな街になると必ず存在する歓楽街。妓楼が二、三軒、酒を飲ませる食い物屋も、その土地を仕切る香具師のような者だっている。小便博打だってする場所もある。宿の主は客にそういう場所を聞かれることも多い。つい、数日前に、ジェシン達と同じような年頃の崩れた感じの両班が泊って、妓楼の場所を聞いて出ていったのだそうだ。

 

 ・・・何日か到着が遅れたところで、誰にも文句は言われねえよ・・・

 

 そう言い放った男を、一緒にいた従者なのか下人なのか判らない中年の男が困ったようになだめていたが、止められずに一緒に出ていったのだという。

 

 「それっきりうちにはお泊りはありません。」

 

 「どっちもか?下人みたいなやつももどってきてねえのか?」

 

 「戻っては来られてないですねえ。到着が遅れるってことは、行き先は決まってるってことですよねえ。お遊びになったらそのまま向かわれたんじゃねえですか。」

 

 宿には宿帳がある。見せてくれと言ったらあっさりと取り出してきた。さっきついたヨンハとジェシンの名もへたくそな字で書いてあった。そして宿泊客の名をたどり頁を戻ると、果たしてそこにユンの姓があった。

 

 「てめえ・・・行き先の寺の名ぐらい調べておけよ!」

 

 「そこまでしない間に、コロが俺を引きずり出したんだろうが~!」

 

 「勝手について来たんだろ!」

 

 「理不尽だ!」

 

 言い合いをした後、二人はそろって妓楼のある方に向かった。その背を唖然とした顔で宿の主は見送った。

 

 

 

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