お祭り大好き! その22 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 絶対暇なんだぜ、という、前も聞いた悪態をジェシンがつぶやいて、ユニは笑ってしまった。最も上座に当たる幔幕には、先ほど開会のために立ち並んだ儒生の間を通っていった王様の姿がある。その横には高官が数人・・・もうユニにもわかる領議政のチェ・ジェゴンやソンジュンの父左議政、ジェシンの父兵曹判書などが立ち並んでいる。まだあちこちと挨拶しているので高官たちは立ったままだった。行儀のいいことで、とぶすくれるジェシンによると、普段はあんなしおらしい姿なんかじゃない、という事だった。

 

 「偉そうにどっかり座って説教しやがる。」

 

 「・・・そう言えばサヨン・・・お尻叩かれるんだよね・・・。」

 

 「・・・あんなことはめったにねえ!」

 

 こんな強いサヨンを叩いてお仕置きするなんて、とかすかにふるえるユニの隣では、大爆笑するヨンハの姿があった。ソンジュンは嗤いはしなかったが、ジェシンの意見には大層共感している風で、深く頷いていた。

 

 「屋敷では常に座っていますよね・・・王宮に出仕するときだって輿に乗って行くんですから・・・。」

 

 「近いんだから歩いて行きゃあいいのにな!」

 

 ヨンハの頭頂部に拳骨をくらわしてからジェシンが同調する。同調しながらも、足首の足袋の紐を固く結び直し、足を踏み鳴らして体を温め始めていた。ソンジュンも同じで、肩をぐるぐると回している。

 

 ヨンハは格好は煌びやかに勇ましいが、おそらく競技に出ることはない。飾りか!とジェシンに言われるほど使った跡のない打棒を肩にもたせ掛け、にこにこと手を振っている。振っている先は一般の観覧席。幔幕の下には、一方には儒生たちの父兄、婦人たちの席、もう一方には華やかな衣装を着た妓生たちが陣取っていた。

 

 「今年はチョソンがいないからなあ~、でもソムソム達は来てくれてるな!」

 

 何人もいるらしいヨンハの馴染みの妓生の名前の一つに反応して、ユニはその幔幕を見た。いつもチョソンにくっ付いていた牡丹閣の若手妓生が数人はなやかに扇で口元を隠しながら談笑しているのが見えた。

 

 「ああ、玉壇妓生になったんでしたっけ。」

 

 ソンジュンが思い出したように言ったのはチョソンのこと。国一と言われた芸と美貌の持ち主だった妓生チョソンは、王宮が抱える芸妓となり、妓楼を出てしまっていた。

 

 「妓生としては大出世だ。もう誰にも手は出せない・・・とは言っても後援を申し出る人は大勢いるだろうな。これからは王宮の祭りや宴で芸を披露し、若手に教える側に回るんだ。おいそれと酌をしてもらうわけにはいかなくなっちまった。」

 

 少しさびしさを抱えてユニはその話を聞いた。チョソンはキム・ユンシクを好いていてくれた。地位も金もない、年すら自分より下の貧しい儒生の何が良かったのか、ユニには今でもわからない。ユニからすればチョソンは何もかもが素晴らしい女人だった。妓生としての芸や美貌だけではない、生きる力、強い意志、輝く黒々とした瞳がユニをつかんで離さなかった。正直、ユニにとっては憧れだった。女人としてもこんなに強く生きられるのだ、と。自分も女人だから、チョソンの想いには応えられなかった。それをチョソンは恨んだろうが、それでも誇り高く次の高みを目指して行った。そう、自棄になって身を持ち崩すことなく、自分を振った男を見返すために自分をさらに磨く場所へ行ったのだ。その心意気が、矢張りユニをチョソンに憧れさせる。

 

 チョソンはもうここに居ない、来ない。そして私も、とユニは思う。大科に合格出来たら・・・いや必ず合格するが、そうなったら私も成均館からいなくなる、出る。そして儒生キム・ユンシクからもいなくなる・・・弟に名を返すときなのだ。そうしたら私は。

 

 チョソンのように、次の高みを目指して進んでいかなければ。私は今を懸命に、そして目いっぱい楽しみ、そしてそれを糧に・・・心の糧にして大地に根を張り、歩まなければ。煌びやかでなくとも、チョソンのように、自分を信じて生きていく女になりたい。だから。

 

 「今日、がんばろうね!」

 

 今日一日も私は成均館儒生として目いっぱい生きる。

 

 

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