㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ソンジュンは少しため息をついて棒を置いた。相手をしていた儒生に他のものが話しかけたので、一旦手を止めたのだ。すると途端に目に入るのは、広場の隅っこで練習をしているユンシクの姿。
そして隣にはジェシンの姿があった。
ユンシク・・・彼女は、体を軽やかに動かす能力は、並みの男の儒生たちよりあると思う。そうでなければ、あんな短期間で弓を射ることなど不可能だったし、そのためにソンジュンが課した鍛錬にも耐えきれなかっただろう。今だって打棒を振り、球に当てて得点圏に正しく飛ばせるようにすでになってきている。惜しむらくは体力が足りないことだ。
女人と知っていればその体力のなさは当たり前だと納得できる。また、ユンシクの場合、虚弱だったという皆に擦りこまれた情報が、無理なくユンシクの体力のなさを肯定させていた。だから問題はないのだが、だからと言って、とソンジュンは軽く唇を噛んだ。
何度も繰り返す練習。だから時間が経つと足元がふらつく。どんなに正しいし背を保っていても、疲れて重心が浮いてくるのだ。腰が高くなる。棒の勢いに体が振り回されてしまうからふらつく。今まさに、そのふらつきをぐっと腕で支えているジェシンを見てしまった。
そんなとき、女人ならどうふるまうか。照れたり恥ずかしがったりするだろう。しかし視線の先のユンシクは、一瞬恥ずかしそうにしたが、ふらついた自分を悔しがって足を踏み鳴らしている。それを、腕をとって支えたジェシンが面白そうにからかっていて、またユンシクが文句を言っている。多分そう。いや絶対そう。そして、しっかり踏んばれとでも言うように背中の真ん中をどん、と叩かれ、ふくれっ面をしてまた構えた。その姿勢を矯正するかのようにジェシンが背後に回り腰を押さえ、その流れで肩の力を抜くようにとでも言っているのだろう、肩を何度か軽く叩いて少し離れる。
ソンジュンにはできないふれあい。
ソンジュンはユンシクと・・・彼女とは一番の友だという自負があるし間違っていないと思う。その座を誰にも明け渡しはしないと決めている。決めたことは守り通す。だが、本当にそれで終わってしまう気が最近してならないのだ。
ジェシンの立場がうらやましい。少し年上、成均館での先輩であることで、彼女を弟扱いできる。ソンジュンの気性もあるが、たとえ本当にユンシクが男だったとしても、ソンジュンはあんな風に言い合い、体に触れるような付き合いはできなかっただろう。ヨンハがやるような肩を抱くことなどもってのほか。ジェシンはまだこういう風に触れる理由がある時に触れるが、それでも相手のユンシクが許容している。全く嫌がらず、自分の体をゆだねるようにして見えるほど相手を信用している。女人なのに。分かっているのか、キム・ユンシク、君は女人なんだよ、とソンジュンは言いたい。
待っていた儒生が声を掛けてきた。話しかけてきた者も加わっていっしょに練習したいという。別に断る理由はない。打杖大会はぜひ勝ちたい。去年は最後、頭を打棒で殴られて・・・ユンシクをかばったから・・・最後まで勝負できなかったし、勝負事はやっぱり勝ちたい。練習不足を理由に負けるのは自分に甘いようで嫌だ。集団競技だからこうやって仲間で練習することは必要だしぜひしておかなくてはならない。それに格好悪いところを見せるのも嫌だ。
誰に?勿論キム・ユンシクにだ。ソンジュン、すごいすごい、かっこいいね、やっぱりソンジュンは凄いね何でもできちゃう!そう言われたい。
練習を再開して、気づくとユンシクの姿はなかった。ジェシンも消えていた。ソンジュンたちが一番最後まで練習していたのだ。三人で肩を並べて東斎に戻り、中二坊の前でヨンハを見つけた。ふらりふらりと扇子を振り、ユンシクがジェシンをお供に尊敬閣に行った、と教えてくれた。うれしくない伝言。尊敬閣には俺が一緒に行くのに。
「って顔だよなあ、カラン。」
そうヨンハに笑われた。