お祭り大好き! その13 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 練習漬けの生活も期限付きだと分かっているから頑張れる、そう笑うユニは、確かに打杖の練習を始めた時よりも体の疲れを訴えなくなった。いや、元から口に出していたわけではないが、見るからに疲れ果てて、自習しようにも瞼が勝手に落ちてしまう、そんな感じだったから、周りには疲れが一目瞭然だっただけ。

 

 こいつは芯が・・・体の芯が強いんだな

 

 とジェシンは感心するほど、ユニは様々なことに体を慣らすのが早かった。そう言えば、と詩集をめくりながら、ソンジュンと向かい合わせに座って本をめくっているユニを眺めて、ジェシンは思い出す。

 

 入学した当初は、布団に潜り込むや否や眠り込んでしまっていた。体も今も細っこいが、そのときは更に細っこく、毎日の講義に追われ、初めての人間関係に戸惑い、おそらく心も付かれていただろうから、それは仕方がなかったろう。気が付いたら朝なんだよね、とぼやいていたのも覚えている。それでも、講義自習自習そして筆写の仕事、と成均館の生活の中での時間の使い方を覚え、馴染んでいった。弟の名で来ているから虚弱だったという触れ込みのわりには熱も出さず、寝込みもせず、休まず講義に出席し、合間合間のハ・インス達の嫌がらせにも耐え、耐えるだけでなく逃げることを覚えた。ソンジュンやジェシンの傍にいれば、多少は遮ることができるのだ。辛かっただろう、と思うのに、それこそ強い意志・・・学んで早く官吏になる、という意志が耐えさせたのだろう。その絶える事への順応も早かった。

 

 いや、体だけじゃねえ、精神もだ。精神も芯が強い。

 

 そんな彼女でも、矢張り毎日の慣れた時間の割り振りが崩れるような事があると、疲れをにじませる。にじませるし、一番先に疲れを見せるのだな、矢張り俺たちより華奢なのだ、と思い出させる。周囲はそれを、元の虚弱で病勝ちだった、という触れ込みにつなげて納得しているからそれはそれで都合はよかった。いつもの明るい元気ものなのが元から・・・生まれつき元気だ、という触れ込みならごまかせはしなかった。

 

 いや、弟が生まれつき元気なら、こいつに直接出会えなかったよな

 

 正直そう思う。成り済ますぐらいだからよく似ているのだろう、見かけは。だが、内面までうり二つというわけではない。よく似ている正確なら、本物のキム・ユンシクが同室生になっていたのだとしても、後輩として可愛がっただろうし、イ・ソンジュンだって親友になっただろう。だが、やはりどこかは必ず相違があり、全く同じ人間ではないのだから、これだけ気にして可愛がって、眼で追ってしまうのは。

 

 やはりこいつが女だからなんだろう

 

 ジェシンは目を詩集に落とした。ユンシクがソンジュンに何か質問している。よく通る声は、男にしてはやはり高い。低く抑えるようにしているのだろうが、それでも響きは声変わりしていない少年のようにしかならない。ジェシンが本を開いているからだろう、声量を落としているから狭い部屋でも内容ははっきりと聞こえてこない。ソンジュンがそれに答え、本のある個所を指で押さえた。こっそりと見てみると、あ、と口を掌で押さえ、そしてみるみるうちに目が輝いていく。その知に満ちた瞳が成均館に彼女が存在することを許したのだ。あの輝きを王様は認めたのだ。だからジェシンは見守らなければならない。

 

 芯の強さは目的のためでもあるだろう。キム家を滅ぼさないために、彼女は頑張らなければならない。その手段が弟の出仕、両班としての出世であるのだが、病が抜けるのを待っていては間に合わないと彼女が立ち上がって今に至る。その目的の達成に必要なのが学問であり、彼女の唯一の手段だ。だがそれだけなら王様は彼女を許しはしなかっただろう。

 

 あの輝き。知を求め知に喜ぶ瞳の輝きは、単に手段として学問に取り組んでいるものの持つものではない。彼女は本当に学ぶことを尊び、喜びとしている。それがどんなに苦しい道であっても、学ぶことが喜びであるからこそ彼女は芯を強く持てているのだ。だからこそ、王様は彼女を許した。彼女が成し遂げようとすることを見守ろうとしたのだ。

 

 ならば。成均館での暮らしを楽しませてやりたい。最初は文句を言っていた行事・・・打杖大会だってなんだって、彼女は全力で慣れ、取り組もうとしている。だからそれだって楽しませてやりたい。前回のは、ハ・インスのせいで無茶苦茶酷い思い出のはずだから。

 

 楽しかったものに塗り替えてやりたい

 

 また詩集に目を落としたジェシンを、ユニからの質問に答えたソンジュンがこっそりと見ていたが、ジェシンはそれに気づくことはなかった。

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村