㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
練習の日々が始まっても、講義が止まるわけではない。日々の課題が変わるわけではないし、だから毎日の自身で行う予復習を含めた自習だって減らすわけにはいかないのだ。つまりやることが増えたという事。それも体を疲れさせることだ。
一年やっていない競技は、頭も体も思い出すのに時間がかかる。ユニはジェシンの指導を素直に受けたから、最初はうまく出来なくても、打棒の振り方などは正しく覚えた。ジェシン曰く、力技を使えないのなら、正しく技術を使うべきだ、という事だった。隣でソンジュンが頷いている。ユニが、一度やっていることなのに、体がうまく動かない、とこぼしたことに、基本をきちんと思い出せ、とジェシンが返したのだ。
「同じ形で球を打つ。そうしたらどちらが遠くに飛ぶと思う?」
「サヨン・・・。」
「どちらの打った球が速い?」
「・・・サヨンに決まってる!」
「じゃあ、俺が逆手で打つ。お前はいつもと同じ形だ。どちらが狙ったところに球を飛ばせる?」
「・・・サヨンだと思うんだけど!」
不貞腐れるユニに、ソンジュンが思わず笑った。
「ソンジュン!だってサヨンが意地悪言うんだよ!」
「コロ先輩は意地悪で言ってるんじゃないと思うよ。」
とソンジュンがとりなすように言って、ジェシンはふん、とそっぽを向いている。解説は任せたと言わんばかりのその態度に、ソンジュンは肩を竦めた。
「この話には続きがあるんだよ、キム・ユンシク。」
ふくれっ面のユニは、それでもソンジュンの方を向いた。丸い頬は不満に赤らんでいる。
試合になれば、正しい姿勢を確保し続けることなど難しい。相手のいることだし、体もぶつかり合う。球だって止まっているものをただ打ち込むのではない。常に弾き飛ばされ、転がり、軌道の定まらない者を打つのだ。球の取り合いのため、体をねじれた状態で動かすの名と当たり前。けれど、これぞ、という時にふと自由になる瞬間がある。さあ、得点できる、という時、誰かに球を回せる、という時に、素早く正しくそれを実行するには、正しい姿勢が染み込んでいなければならない。
「君が、コロ先輩が逆手であっても君より狙い正しく球を打てる、と答えたのは間違いじゃないよ。でもそれはコロ先輩が特別に上手だからだ。他の人はそうじゃない。逆手で打ったらとんでもないところに球は飛ぶよ。でも慌ててたら、早くこの球をどうにかしなければ、ととんでもない姿勢でも打ってしまうものなんだ。そんな時、きちんと正しく球を捕えることができる体勢になれるぐらい、基本の姿勢を叩き込んだ方がいい、ってコロ先輩は言ってるんだと思うよ。ねじれた市井の相手より、正しい姿勢で打つ君の方が、狙ったところに、正しく、それなりの速さの球を飛ばせるってことだよ。」
そうですよね、と同意を求めるソンジュンに、ジェシンはふん、と頷いてユニの方に体を向けた。
「去年やったからって毎日やってないことが上手になるわけはない。これだけ間が空いてたら、基本を繰り返すことが一番の上達の近道だってことだ。欲張んな。」
「よくばってないもん・・・。」
ユニはしょんぼりした。ちょっとだけ自覚はあるのだ。すぐにできると思ったから思い切り打棒を振ってみたらひっくり返ってしまった。勿論笑われた。悔しくって振り回してみても、あれ、と思うほど球に当たらない。通りがかったジェシンに、去年と同じように体を抱えられて腕の振り方を教え直されて、ようやく当たったのだ。まるで小さな子ども扱いされたようで、悔しかったのだ。自分が結構できたはず、という思い込みがガラガラと崩されたようなものだったのだ。
「思い出したんなら、明日からは球に当たるぜ。」
ジェシンに言われて小さく頷くと、ユニはしおしおと小机に向かった。明日の予習をしなければならない。ソンジュンは隣の小机に向かい、ジェシンは壁にもたれて何かを読み始めた。詩集なのか講義の本なのか判らないけど、サヨンは何だか余裕があるな、とぼんやり思っていたら、ソンジュンに揺り起こされた。
「眠いなら寝た方がいい。」
しばらく机に突っ伏して寝てしまっていたようだった。振り向くと、ジェシンもまだ本を読んでいたが、布団がすでにユニの分だけ敷かれている。
それにも気付かなかったのだ。