㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
成均館は行事が多い。
そう言ったキム・ユンシクことユニに、アン・ドヒャンはがはは、と笑った。
「学問以外のことをするのが許されていいじゃないか!」
「え~・・・僕一人前に早くならなきゃいけないから、ちょっと困る・・・。」
「そんなに早まって大人になるなテムルよ・・・俺としばらく成均館で遊んでいよう。」
そんな二人の会話を、周囲に居てバラバラな会話に興じていた儒生たちが聞きつけて一緒になって呆れたり笑ったりする。そんな風景が見られるようになったのは、西掌議がハ・インスから交代してからだった。
インスは望んでその座を退いたわけではない。成均館を出ざるを得なかっただけだ。父親が投獄され、断罪されることが確定になって、ハ家は身分だけは残された状態で身ぐるみはがされた。母方に残された母の土地を頼りに、彼らは都を去ったのだ。
ユニはインスから目の敵にされて、大層嫌がらせをされた。追い出すべく濡れ衣を着せられそうになったこともある。そんな憎き相手ではあるが、正直彼らの身分や命が取られることなく済んだという事は、ユニをほっとさせた。病で一家の主を失った自分たちと同じようで同じでない。ハ家にはインスがいる。大黒柱の代わりがいるのといないのとでは大違いだ。ユニは正直そう思った。ユニと同年齢の妹・・・イ・ソンジュンと婚約までいった令嬢もいるのだ。インスはユニにとっては怖くていけすかない人だったが、その怖さが今思えば家族にとっては頼りがいのあるものになるかもしれない、と安心感さえ与えるのだから都合のいい話だ。
そんなことを言っていても、インスがいなくなったことで組織だってユニに嫌がらせをかけて来ることはなくなった。小さなものはある。だが、それは人と人との相性みたいなものもあるだろうと思う。 合わない人とは合わないし、合う人とは年齢が大層違っても合うものだ。ユニとドヒャンのように。
「兄上といるのは楽しいけど、僕は家族を養うだけのお金を稼がないとダメなんだよう。」
「お。俺の養子になるか?そうしたらほれ、テムルの家族を持っている土地に連れてきてやれるし、テムルと俺は親子で成均館儒生だ!」
「やだよ~僕の父上は父上だけだよぅ・・・。」
「テムルっ!お前はなんて健気な親孝行息子なんだっ!」
そしてユニをがばりと抱きしめるドヒャン。大体何の会話であっても最後はこの形で終わるのが定番になっている。訳が分からない。そう思っているのは周りだけで、本人たちは至極真剣に会話した挙句の行為なのだ。
「しかし、行事が多いというのは事実ですよね。その点キム・ユンシクに賛成です。」
ソンジュンはそう言いながら、さりげなくユニの手首をとり、ドヒャンの背中の布を掴んでいる手を離させた。近すぎるんだよ君たちは。
「楽しいじゃないか~。俺は賑やかなことは大歓迎だ!」
ポンポン、とユニの意識をそらすように肩を叩くのはヨンハだ。俺なんかテムルを抱きしめたら漏れなくぶっ飛ばされるのにさ、ずるいんだよドヒャンは。
「暑苦しい。離れろ。」
ドヒャンがぐえ、とひしゃげた声を上げてユニを離した。ソンジュンがそのまま手を引いて数歩導く。そんなユニの目の前には、襟首を掴まれたドヒャンと、それなりに大男のドヒャンの後ろから顔が見えるほど背の高いジェシン。
「ゲホゲホ・・・おい!コロ!殺す気か!」
「死なねえだろそれぐらいで・・・。」
咳き込みながら訴えるドヒャンと、うんざりと返すジェシンの様子に、周りはゲラゲラとヤジを飛ばす。このやり取りも恒例になりつつあるのだ。ジェシンは表情と同じくうんざりしていた。なんで仲いいんだよ、こいつら。
「とにかく、部屋に戻るぞ。お前いつまでそれぶら下げてる気だ。」
片手にはまだ講義に使った本や筆記用具を持っている。これが案外かさばるのだ。それに、水差しなどは陶器で出来ている。落としたら割れてしまう。
テムル!養子の件は考えてくれよ!いやだよう!そんな応答を繰り返しながら西斎と東斎のそれぞれの清斎へ分かれて歩き始めたユニ達。他の儒生たちも講義の終わった開放感のまま、散り散りになり始めた。