㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
この二年ほどの付き合いの中で、少しずつ自分たちの人生に変化が起きたことをさらけ出してきた。楽しい集まりの中にも、思いやりがある。ユニ達姉弟は父親を亡くした。ジェシンは兄を。家族を失う事の、それもいきなり失うショックは、何年経とうとも、残る傷となっている。痛みが少し薄れるけれど、傷口はいつだって引き攣れる。
けれど。
心許した人たちに、天に還った人たちの思い出を語ることで、亡き父が、亡き兄が、今も生き生きとまるで傍にいるように感じることができると知った。皆はユニ達姉弟の父の職業を知り、それに感嘆し、ジェシンの兄の優しさを知り、うらやましがり、決して過去のこととしてとらえなかった。いつまでも父であり兄であるから。そう思ってくれるのが分かるからこそ、もういないことを事実だと分かっていて傷は引き攣れても、もう痛むことはなくなっていた。
ソンジュンの抱いていた不安と人に対する不信感は、皆に共感された。一家の長が国の行く末も背負う立場の人で、首都を空けるわけにはいかなかったその不安は計り知れないし、疎開先で掌を返したように接されたことの怖さは、ヨンハもジェシンも知っている。ユニ達だって、結局は誰も助けてくれない、と知った。母がしっかりしていて、二人を守ってくれたからこそ、ソウルに逃げてこられたのだ。
生活の不安のあるなしは横において、皆どこかで人生がひっくり返ってしまう危うさを戦争が与えていた。少年少女らしく、ただ先を、上を見て育つことを断たれた何年もの間、守ってもらえた子どもたちではあったが、それでも傷つき、不安に押しつぶされそうになり、絶望の淵を覗きかけた。
そんなことを少しずつ話して共有して、時々大人である医師夫妻や大けが親父にも聞いてもらって。
若者たちは今、先を見据え、上を向いて歩き始めている。
インスにはカン・ムの父親がいてくれた。彼を世間から守り、これからのことを相談に乗ってくれたのだろう。背中も押してくれただろう。医院を襲う仲間に入れられたビョンチュンの今はわからないが、彼だってそういう大人が近くに居れば、あんなことにはならなかったかもしれない。
「君たちは成均館大学に進学するんだったねえ。医学部にはいかないんだねえ。」
医師が残念そうに言った。
「俺は父親の跡継ぎだし、こいつの頭は根っからの文系なんですよ。」
ヨンハが笑う。
「でもコロ先輩、数学得意だよ。僕教えてもらうもん。」
とユンシクが言うと、
「できないことはないが、興味があるわけじゃねえ。」
とジェシンはあっさりしたものだった。
「次に進路を決めなくちゃいけないのはユニちゃんよ。ユニちゃん、看護学校に行かない?」
と奥さんが笑う。
「えっと・・・父と同じ、中学教師の道に進みたいんです。」
申し訳なさそうに答えるユニに、気にしないで、と奥さんは慌てて手振った。
「じゃあ教育系の大学かな。成均館に来てくれたらいいのに~。」
とヨンハが言うと、
「成均館はまだ・・・女子学生をとらない学部もあるから・・・。」
とこれも申し訳なさそうにユニが笑った。少しずつ増えてはいるが、まだ男女別の教育機関が多いのは、国の成り立ち上時間がかかるのは仕方がないだろう。まだ、過渡期だった。
ユニとジェシンが同じ大学に通うことはない可能性が高い。今よりもずっと忙しくなるだろうし、積極的に会わなければ、今だって高校が違うのだから一緒だ。医院から家に帰るために送ることも、医院の隣にユニ一家が越してきたために必要なくなった。だから、ジェシンがわざわざこの医院に来るのは、本当にユニに会うためになってしまっている。皆にジェシンの気持ちなど駄々洩れだ。
それでもまだ何も伝えていない。
ただ、ユニが、一つ年下のユニが進学を決めたとき、ジェシンは一つだけ行動に移そうと決心していることがある。髪に上品に光る真珠の蝶のヘアピンを贈るような柄じゃない。でも、ユニに、自分の気持ちと願いと、そして祝いの気持ちを込めたものを贈りたいと思っている。
それまでは、『コロ先輩』でいい。