㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「お前はもう首を突っ込むな。」
「ユニさんたちに何もないなら突っ込む必要なんかないです。」
帰りは父の送迎に使われている公用車が来て、ジェシンも便乗させて、いや、させられて帰宅することになった。本当なら医院に戻りたかったのだが、どうしようなく大人たちに囲まれていて、脱出できる隙は無かった。
ジェシンにやられた三人は、一人は首のねん挫と脳震盪、一人は鼻骨骨折と打撲、一人は両肩両膝脱臼だがとりあえず骨は元の位置に戻され、今は炎症で痛みがあるとのことだった。
「首を鍛えてたらあれしきでねん挫なんか・・・。」
「誰もがお前と同じ体術を習得しているわけじゃない。」
と父に頭を張られ、ジェシンはふくれっ面をした。本当なら殺しても飽き足らない罪だ。ユニを怖がらせ、ユニの腹に痣を、ユニのすね裏に擦り傷を作った奴らは死刑だ。心の中でそう思っていると、お前は、と隣に座って腕を組む父が前を向いたまま聞いてきた。
「あの、キム・ユニさんというお嬢さんと、何か約束でもしたのか?」
「約束?」
本気で意味が分からなかった。分からなかったという表情があからさまだったのだろう、父は少し苦笑した。
「将来の約束をしたのか、と聞いている。」
寸の間考えて、ジェシンは今日何度目かの顔の熱を感じた。血が鼻腔あたりに集まってくる気がする。
「ゆ・・・友人だといいました。」
「なんだ。していないのか。よさそうなお嬢さんなのに。○○高等女学校に行っておられるそうだな。頭のいい女子学生の行くところだ。」
からかわないでください、とジェシンはそっぽを向いた。
「好意を持つことは悪い事ではない。ただ・・・節度を持っていなさい。ユニさんは今回怖い思いをされた。しばらく男が・・・怖くなるかもしれない。会いに行くのは構わないが、よく様子を見て押しつけがましくならないように、気を使え。というよりお前は気を使う練習をさせてもらえ。惚れた女相手ならやる気になるだろう。」
「ほ・・・!」
パクパクと口を開け閉めするジェシンを、父は面白そうに見た。
「違うのか?お前がこんなマメな男だと知らなかったぞ。体を動かしてテコンドーをやっていれば満足、みたいな暴れん坊だったのに、女性を心配して送り迎えをするようになるなんて、お前の母親が聞いたら泣くんじゃないか?」
「お・・・俺は別に!」
とにかく、と父は背もたれにどう、と背中を深く預けた。眉間を指で揉む。
「調べれば調べるほど闇が深くなってくる案件でくさくさしていた。相手も用心深くなっていたから、綻びを見つけたかったところにこの事件だ。お嬢さんには申し訳ないが、あの三人をひっかけてくれたみたいなことになったんだ。儂が出ないわけにはいかないだろう・・・。」
ジェシンの保護者として現れる前に自らやってきた理由を遠回しに告げて、父は目をつぶった。
「行方不明者の数がいまだ正確に把握できない。戦争なんぞろくなものじゃない。せっかく生き残っても、闇の手に引きずり込まれて国から離れて生きなければならない人たちがおそらく大勢いる。行方不明の訴えがあるものはまだましだ、家族がいるからな。だが、誰も探してくれない路上の子どもたちの内、何人が消えただろう。若い女性が何人消えたかわからない。ユニさんはお前だけじゃない、ご家族と、イ君もいるから大丈夫だ。だが、探してももらえない人たちもいるのだと、お前は胸の片隅にでも覚えておけ。」
若者は、と父は言った。
「国の希望だ、未来だ。なのに、その芽を摘んで、勝手に売りさばく奴らに国を灯を取り上げられてなるものか。そう思って儂は動く。」
父をジェシンは初めて尊敬した。