㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ジェシンとソンジュンは別々に調書を取られることになり、ジェシンの父が立ち合いという事で、ソンジュンが優先された。先に家に帰さなければ、という事なのだろう。ソンジュンがスンドリに連れられて警察署から出ていったあと、ジェシンは父と共に個室にいざなわれた。
「まず、キム・ユニさんを無事に救ってもらったことに感謝します。」
目の前の捜査員が軽く頭を下げたのでジェシンも返した。もう一名が壁際で記録をとっている。
「ただ、かなり無茶をしたね。君も怪我をするかもしれなかったんだよ。」
父より多少若いだろうベテラン捜査員は、ジェシンにくぎを刺した。言い訳はしない。殺すつもりはなかったが、一撃で倒すつもりで蹴り、殴ったのだ。相手を全く慮ってはいないのがまるわかりの負傷状態なのは、やったジェシンが一番知っている。
ユニが連れて行かれるのを目撃した時点からチンピラたちを制圧するまでを、順を追って話した。大した話はなかった。あとを追って行って乱闘するまで数分のことだろう。しかし、あのスラムの曲がり角の時点で気づかなければ、ユニはどうなっていたことか。考えるだけで背筋が凍る。
「君と・・・被害者のキムさんとの関係は?」
「・・・友人です。」
「住まいが近所でもないし、学校も全く重なっていないだろう?イ・ソンジュン君とのかかわりで知り合ったなら分かるけれど、彼曰く、君に久しぶりに会った時は既に知り合いだったという事だけれど。」
「ええ。彼女の弟のための薬をあの医院からもらって抱えていた時に、チンピラどもにその薬を取られそうになっていたんで、その時に。」
「今回のように助けた、と。」
「まあ、そういう事です。あのあたりは大通りと裏通りの境目で、彼女は裏通りから急いで帰ろうとして目を付けられたようです。近道なんです。」
「薬、というと?」
「種類は知りません。彼女の弟はあの先生によくお世話になるそうですし、今日もかなり咳き込んでいましたから、その症状のために薬でしょう。先生に聞いてください。」
「ちなみにそれはいつのことですか?」
もう一年前のことになる。ジェシンが高校一年、ユニが中学三年。ああ俺はもう一年もあの子のために病院通いをしていたのだな、と思うと、カッと顔に血が上った。
一年も。友人として。学校が休みのたびに自分には用のない医院に通い、一人の少女を家まで送り届けてきたのだ。自分でも驚いたが、目の前の捜査員も書記の捜査員も、顔を見たくないが隣に座る父親だって気が付いただろう。
ジェシンにとってユニがどんなに特別な少女なのか。
見たくはないがちらりと伺うと、捜査員は驚いたような照れたような顔をしていた。ああ、気づかれている。また顔に血がのぼる。熱い。
えへん、とわざとらしく咳をした捜査員は、では、と話題を変えた。
「今日の三人は君も面識があった、わけだね。」
「はい。イ・ソンジュンが訪ねてきて、良くない人たちが隣家の人に会うために彼女たちの家の当たりに来る、と聞いたんです。それで一緒に行ってみると三人がたむろしていました。ユニさんにちょっかいをかけようとするので、確かにあれは怖かったでしょう。中にまでは入って来ませんが、同じ敷地内の隣家の人の関りなので避けようがなかったようです。関係ないのにかわいそうでした。」
「大人に相談すべき事柄だね。」
「彼女のお母さんもご存じでしたが、働いておられるし、女性一人ではどうしようもなかったでしょう。イ・ソンジュンが俺のところに来たのは、彼女たちの知り合いだという事と、父に・・・俺の父に話しが行くことも期待してのことだと思います。」
「ええ。儂も息子から話は聞きました。個人的な案件は所轄に連絡するよう言うところでしたが、今回は絡んでいそうな組織が捜査中の者と関りがありそうだったので、動きを注視することにして、何かあれば警察にすぐ連絡するよう言っていたところです。」
「ありがとうございます、長官。しかし今回は長官のところに直接連絡を入れられたと聞いています。」
「連絡は医院の先生の判断です。息子は被害者を追っていましたからね。先生は儂に連絡したほうが話が早いとおっしゃいました。それだけ被害者のことを心配していたのでしょうが。それに助かりましたよ。」
父の声音が変わったことにジェシンは気づいた。
「この案件は署で処理してもらいましょう。だが、別件で取り調べをしたい。違法な人身売買の捜査が進んでいる。今回の加害者三人は、末端ではあるが一人の女性の身売りに関わっていることが分かっています。もう少しで、しっぽが掴めるのだ。あいつらは海外に我が国の少年少女、女性を売っている。売国奴を捕まえる絶好の機会なのだよ。」
途中からその地位そのままの圧力を出してきた父に、ジェシンは自分の羞恥心も忘れて呆然としてしまった。