ノワール その55 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシンの報告をきいて父はうなずいただけだった。それ以降はジェシンは入ってはいけないし、ただ、ユニ一家の住む家の周辺に警察の目が入ることを祈るしかなかった。

 

 頼みがソンジュンの存在だというのも悔しかったが、一緒に勉強をしたあの時間、ソンジュンはあどけない可愛い後輩だった。素直で、まじめで。学年が違うから、目立つところしか知らなかった彼の違う面を知って、印象は少し変わった。ただ、ユンシクの友人というだけならば、可愛い後輩にシフトチェンジしただけで済んだのだが、そこにユニも加わってくるとなると話は違った。

 

 ただ、ジェシンには大義名分がない。休日の医院から家へ送っていく行為は、どうも習慣化してしまったからいいし、あの大けが人から続いた強盗事件であの医院とジェシンが関わることが不思議でも何でもなくなってしまっていたから、堂々と出向けた。医師夫妻や看護婦にからかいの視線を浴びるのだけは勘弁だったが。それでも行かないという選択肢はジェシンにはなかった。

 

 ユニは本当に普通に暮らしている女子高生だ。けれどどこか危なっかしかった。それはユニのせいでは決してない。まだ荒れている世情のせいでもある。ソンジュンは嫌がっているが、ソンジュンのような大柄な男子にも家から送迎がつくのだ。それはソンジュンの父の職業のせいでもあるが、明るい時間の学生の登下校でさえ用心しなければならないというこの世が間違っているのだ。ユニはソンジュンのように国の重要人物の子弟ではない。だが、女の子だ。若く、そして容姿の整っている。世があれていなくても女子供は弱者だと言われてきた。それはやはり力の面において、男に敵わないせいではあるが、ジェシン達の住む国は長い間男尊女卑の儒学が国法だったせいでもある。女は男に従うもの、それは違う言い方をすれば、弱いものを強いものが守るためだという見方もあるようだが、そんなことは言葉遊びだ。知識のあるものからないものまですべからく、女は男のいう事を聞いていればいい、そう簡単に解釈するものの方が圧倒的に多かった。そして今も、続いている。

 

 ユニはおそらく欲しがられる。いい男にも悪い男にも。いう事を聞かなければ連れて行けばいい、と思う浅慮な考えのものは大勢いる。けれど平等に高等教育が受けられるようになった今、ユニは自立した女性となるために学ばなけらばならない。学校に通わなければならない。ソンジュンのように望めば送迎がつく家ではないから、自分の足で。どんなに地味な高校生の格好をしていても、風が吹いて前髪が額をあらわにすれば光り輝くその容貌を晒して。

 

 父に警察の動きのことは聞けなかった。けれど、ジェシンは夜、亡き兄の部屋に入り調べ物をすることができた。兄は学生だったが、法律を学んでいたため、関連の書籍を所蔵していた。今も何も動かすことないままの兄の部屋で、ジェシンは床に座り込んで法律書を読み漁った。ハ・インスの父が動かしている会社の動きの何に父は目を付けていたのか。いわゆる風営法の方なのだろうと思っていたが、それに加え、思いついて経済関係のページをめくり続けて見た。

 

 これか、と思うものを一つ見つけた。経済関係の勉強などこれっぽっちもしていないから、条文を見たってピンとくるものはなく、めくっては戻り、読んでみては首をひねりして時間をかけていた。目はちかちかするし、座り込んだ尻は痛い。首もいてえなあ、とぐるりと回してから紙面に目を落とすと、飛び込んできた一言。

 

 貸金業

 

 ジェシンはむさぼるように続きを読み漁った。夜中、父が静かに帰宅した気配はあったが、それも無視して、ただ読みふけっていた。

 

 

 明日は休日、というその日、ソンジュンが夕刻にまた訪ねてきた。出迎えた母に、先日論文の書き方を教わりましたので、今日は書いたものを見ていただきたくて、とにこにこと訪問の説明をしたソンジュンは、ジェシンの部屋に引っ張り込まれると、一気に表情を変えた。

 

 「ユンシクの隣人夫婦がいなくなりました。」

 

 「・・・チンピラどもが連れて行ったんじゃないのか?」

 

 いいえ、と首を振ったソンジュンは言った。

 

 「彼らも探しているようです。今日、しつこく聞かれました。二人をどうにか庭に押し込んだんですけど、手を掴まんばかりに迫ってきて・・・。俺が帰る時にもまだいて、人の気配はなかった、と答えてやると、何度も舌打ちして去っていきました。ユンシクによると・・・そういえば今朝、奥さんにも会わなかった、と言っていました。」

 

 父が動いたのだ、とジェシンは確信した。

 

 

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