ノワール その36 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 家に戻ると、父親が待ち構えていて、ジェシンは着替えるとすぐに父親の車に押し込まれた。心配そうな顔の母に、学校に放り込んでくるから、と安氏させた父は、車中ではむっつりと黙ったままだったが、いつもの役所ではなく、ある警察署へとジェシンを同行させなければならないのだ、とだけ告げていた。

 

 そこでジェシンは昨夜医院に押し込んできた三人のチンピラの顔写真を見せられた。よく見てほしい、と言われて注意深く見ると、ひとり見知った顔があった。

 

 「・・・こいつは、入学してひと月で高校を退学しています・・・。」

 

 名前までは覚えてません、というのは仕方がない事で、クラスが違ったからなのだが、それならなぜ逆に覚えているかというと。

 

 「・・・ハ・インスの金魚の糞だったから、妙に覚えてる奴なんです。」

 

 というジェシンの言葉に、同席していた警察官たちは色めき立った。

 

 「ジェシン君。君はハ商会の息子と友人なのかな。」

 

 咳払いをするように一人が聞いてきたので、ジェシンは緩く首を振った。

 

 「あいつとは前から馬が合わなくて。あいつは俺を嫌いだし、俺もあいつは嫌いなんで。友人になど一度もなったことはありません。」

 

 乾いた笑いが漏れる。流石総監のご子息、などとジェシンの父に聞こえるように言う署長らしき男の声も聞こえたが、ジェシンからすれば父親は関係ない。中学の時から、ハ・インスはジェシンに突っかかってきて勝手にライバル視してきていた。そのねちっこさがジェシンには気に入らなかっただけの話だ。

 

 「では、このイム・ビョンチュンはハ商会の息子と友人だったというわけですな。」

 

 「友人、というよりは、主人と下っ端みたいに見えました。ハ・インスにごまをすってすり寄っている、という印象があって。あいつが俺に何かいちゃもんを付けに来ると、俺のことをよく知らないはずのこいつが、肩を怒らしてハ・インスの言うことに同調して囃し立てて来る、って感じでした・・・。」

 

 思い出すだけで顔がいがんで来るのが分かる。ハ・インスはジェシンにとっては卑怯の塊みたいなやつだった。取り入ってくる級友へは潤沢な小遣いを遣い使いっ走りをさせ、気に入らない同級生や下級生に嫌がらせをさせる。自分は手を下さない。自分の取り巻きをさせていた者たちだって、気に入らなくなったら徹底的に排除して学校に来れなくなったものもいる。それでもうやむやになったのは、その時にはすでに戦争が激しくなっていて世間が行き詰まり、それを理由に登校しない者も増えていたせいもあるし、実際インスは早いうちに疎開させられていたから、自分が先に安全なところへ行ってしまったのだ。残された取り巻き連など、何の力もなかった。ジェシンとヨンハも次々に疎開させられたから、中学は最後の学年の時の後半にやっとまともに行けるようになったぐらいだった。進学もあったし、疎開から戻ってからはあまり関りがなかったのに、入った高校でまた絡まれたりすることになったのはうっとうしかった。だがクラスが違ったからまだ楽だったのだ。たまに廊下で小競り合うぐらいで済んでいた。その中にビョンチュンはいた。

 

 服装は、未だ揃いきれない制服を、何とか上下の色形を近いものを着用するという事にしていたから、その家の余裕の違いがよくわかってしまう。ビョンチュンは、明らかに誰か大人からのおさがりの黒い毛織のズボンに肩幅の合わないシャツを着ていた。威勢だけは良かったが、何しろインスを見上げる目が卑しくへりくだっていて、ジェシンは嫌いだった。なんでハ・インスごときにへこへこしてんだ、とまじめに思っていた。それがいつの間にか顔を見なくなって、流れてきた噂では、高校に通う余裕がないから働くように親に言われたらしい、借金も多いんだって、という事だった。

 

 退学していくものは他にもいた。貧しさが理由のことは多い。中学を出ていれば十分、と考える親世代もまだ多いからおかしなことではないが、働くために学校を辞めたものがなぜ。

 

 強盗なぞに加担しているのか。

 

 

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