ノワール その35 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ごほん、と咳払いをした警察官は、ジェシンの彼女・・・ユニの身元は確かなのか、と尋ねてきた。

 

 「確かも何も、まだ中学生のお嬢さんだからね。弟君がうちの患者で、すごくきれいな字を書く子だから手伝ってもらってるだけ。真面目に毎日勉強しているいい子だよ。」

 

 「一応話を聞きたいんですが。」

 

 「ここに来た時に聞いてあげてくれるかな。いきなりあなたたちみたいな厳つい男の人に家に来られたら怖いでしょ。」

 

 「まあ、一応の確認だけなので。いつこちらに?」

 

 「学校が休みの日曜日。」

 

 分かりました、と頷いた警察官は、またジェシンの方を向いた。じろじろとジェシンの風体を見て、もう一度咳払いをした。

 

 「総監から君がここに居るという情報を聞いていなければ、押し込んだ奴らの仲間かと勘違いしそうな格好だが、高校生なのだろう?」

 

 「・・・この服のことなら、借り物です。」

 

 医師は大笑いしていた。

 

 「このけが人の処置の時、手伝ってもらったんだよ。意識が混乱して暴れたからね。おかげで彼の服に血が飛び散ってねえ。着替えてもらったんだよ。」

 

 「先生の服ですか。先生がこのような服を持っておられるとは・・・。」

 

 「私だって若い日はあったからね!」

 

 小太りでジェシンより背の低いのをいぶかしそうに見たものの、ジェシンがシルクの黒いシャツなんぞを着ている理由が分かった警察官は、服装に関する説教は収めてくれた。が、一言は何か言っておきたい気分だったようで。

 

 「君たちはまだ子供の部類だ。健全な付き合いをするように。」

 

 と余計な忠告を厭味ったらしく述べて警察署に引き上げていった。

 

 いきなり部屋の中はしん、となった。侵入時に取り押さえられたので、警察官たちが台所以外を触ることもなく、一応周りを確認するので、と周囲に仲間が残っていないか外を回ると言い置いていった。けが人は鎮痛剤が効いたのか再び寝始めている。びっくりして下がったのかな、と医師が笑うほど、診察したときに高熱が嘘のように微熱まで下がったおかげか、随分大人しく寝入っていた。医師は治療に使ったものを片付け整理している。ジェシンは手持ち無沙汰になり、とりあえず台所を元に戻そう、と扉を開けた。

 

 狭いその部屋にある流しと簡易のコンロはかべぎわにあったおかげで無事だ。丸椅子が二つ、ひっくり返って転がっている。水のタンクが傾いていたのでまっすぐに立たせ、椅子を一つ一つ元に戻すと、ジェシンはため息をついた。

 

 「どうすんだよ、この扉・・・。」

 

 丁寧にはしてくれたのだろうが、とにかく蝶番から外れた扉は、ただ、ぽっかりと開いた出入り口の穴に立てかけているだけの唯の板切れになっていた。

 

 

 結局その晩それから、この無防備な穴と化した扉が気になって、ジェシンは台所の床に座り壁にもたれて一晩を過ごした。奥さんが座布団と毛布を持って来てくれたので使ったが、布団の上に寝ていない体は、睡眠不足よりも体に堪えることがよくわかるぐらいバキバキに固まってしまった。とにかく、学校には行かなくてはならない日々が始まっている。一旦家に帰って着替えないと、と黒いシルクシャツを嫌そうに眺めているジェシンの前に、奥さんが朝ごはんだと呼びにやってきてくれた。

 

 「まだ夜明け前だけど、みんな起きているしいいわね。」

 

 空が明るくなってきた午前5時前に、医師夫妻と一緒に奥さん心づくしの朝食を頂いた。正直、腹は減っていた。泥棒騒動の後、何も飲まず食わずで台所の番をしていたようなものだった。その時は何も思わなかった。やはり興奮していたのだろう。

 

 炊き立ての粥にはトウモロコシが混じりいい香りを放っていた。若い人には物足りないかしらね、と言いながら、小さな机一杯にキムチをはじめ漬物、ワカメの炊いたもの、ジャガイモを擦って粉を少し混ぜて焼いた小さなチヂミなどが並び、決して物足りなくはなかった。粥を三杯頂き満足したジェシンに、奥さんははい、と白シャツを渡してくれた。昨日、血で汚したジェシンのシャツだった。

 

 「血はすぐに落とさないとダメですから洗っておきました。家でもう一度洗ってもらってね。」

 

 少しだけ湿り気の残るシャツに、奥さんの精いっぱいの気遣いが感じられて、大変な目に遭ったけれど、自然と頭が下がった。

 

 

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