ファントム オブ ザ 成均館 その12 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 呪い、成均館に居つく儒生の亡霊が呪った、という噂が走った。博士たちは、何を馬鹿なことを、と取り付く島もないが、儒生たちは半分は真剣に、半分は面白がって噂した。当事者となった三人の儒生とユニは、じろじろと見られる羽目になったが、ユニがいつも忙しそうに講義に臨み、課題のために書物をもって歩き、筆写の仕事で家族の生活のための金を稼ぐ暮らしの中に、呪いなどという行為をする暇がないことなどまるわかりだった。大体呪いの知識だって、札を書くのか、とか力のある呪術者に頼む、とかそれこそ本体の成均館の亡霊に何らかの対価を差し出して呪わせる、とか、皆面白がってその方法を話し合っていた。だが、そのどれもがキム・ユンシク・・・ユニには不可能なことだと分かっていた。札は本人に何らかの不可思議な力がないと無理だし、呪術者に頼むには金が要る。亡霊だってそんな不確かなもののところに頼みに行くなど、四六時中一緒にいる同室の二人の目をかいくぐってできるわけない。対価?魂か?それなら今頃あいつは幽霊の仲間入りだろ、とジェシンが鼻で笑ったぐらい、『呪い』という言葉は一種の非日常の話題となっただけだった。

 

 ただ、三人の儒生にとっては笑い事ではなかった。今回はイ博士の講義の試験で起こったことだったが、これが他の講義でも起こったならば、と怯えてしまったのだ。それでも彼らはユニには謝りに来なかった。来なくて全く問題なかったが、ユニの方からすれば。『呪い』について心当たりもない事はなかったし、どういった顔をしてどう返答していいかなど思いもつかなかったから。

 

 一回飛ばした次の5のつく日、ユニはまた霊廟に向かった。扉をすり抜けて中に入ると、常時暗めに灯されている灯火の向こうに、真っ黒な衣装の男が座っていた。近づいていくと、彼の後ろにある祭壇の香の細い煙が真上でなく横に流れている。ふと見れば、近くにある板張りの窓がほんの少しだけ開けられていた。

 

 日を飛ばしてしまったのは、その夜、遅くまで皆で勉強していたからだ。王様の前で謁聖諮問があり、それに選ばれてしまったのだ。ソンジュンとジェシンは成績上位者として当たり前のように毎回入っているが、今回はユニとヨンハも名簿に名が載り、ユニに至っては緊張で本から目が離せない状態になってしまい、同室の二人が付き合ってくれたのだ。最終的にジェシンが切れて、さっさと寝ろ、と寝床に突っ込まれて終わり。ユニはあんなに緊張していたのに、横になったら気づけば朝になっていた、というわけだ。

 

 あはは、と楽しそうに笑った男は、それで上手くいったのかな、と聴いてきた。

 

 「うまく・・・というか、答えられました、けど、何を言ったか覚えてません・・・。」

 

 また男は声を小さく立てて笑い、当たり前だろう、と同意してくれた。

 

 「何事も初めてのことは胸が縮まる想いがするものだ。君はよく頑張ったのだよ。」

 

 はあ、と頷いたユニは、今日の質問に映る前に、『呪い』騒ぎについて簡単に話してみた。すると男は深い笑みをたたえたまま、天罰だろう、と言った。

 

 「どちらにしろ、その三人は成績は良くないのではないか?情けないことに、この国一と言われる成均館に、その頭脳以外の理由で入学するものがいることを、君は知っているだろう?」

 

 ユニは頷いた。ソンジュンやユニは小科の成績を評価されて入学が決まった。ジェシンやヨンハ、他の儒生だって小科に受かり、その成績をもって入ることが出来ている。のは建前で、小科にはぎりぎり受かったが、成均館での席を求めて金をあちこちに積み、推薦を貰って入っているものも実は大勢いる。そのあちこちとは具体的に誰なのかはユニは知らない。けれど、成績のみで入ることが許されているわけではないのだ。

 

 「『呪い』がなかったとしても、彼らはいずれイ博士から見放されたよ・・・イ博士の講義を受ける価値がないと知らせがあっただけではないのかな・・・。」

 

 ユニは男の顔を見上げた。前よりも少し顔色が悪い気がする。元から真っ白なのに。その言葉を吐いているとき、男の表情は読めないほどに無であった。

 

 

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