ファントム オブ ザ 成均館 その2 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 その建物は、おそらく清斎の部屋が足らなくなった時があって作られたものなのだと言われている。あくまで臨時のものだから、オンドルも通っていないし、狭い部屋が二部屋あるだけの小さなものだ。いずれ取り壊すからと東斎を取り囲む低い塀の際に建てられたが、案外しっかりした者だったので、その後、大科に向けて一人の時間が欲しい儒生などの勉強部屋のように使われた時期があった。その時に、この部屋を使った儒生が死んだのだという。学問に狂ったのか、狂いすぎで命が削られたのかはわからない。結局は体も弱かったのだろう。ただ、その後、この建物にはその儒生の霊が住み着いてしまっている、というか離れられなくなっているという噂が流れ、誰も触れなくなった、という説が今もしつこく残り続けている。

 

 だから時に、肝試しをする馬鹿な儒生が出る。皆若い。お互いに恐怖心を隠して煽り合い、引けなくなってしまう。そうして数年前、三人の儒生がまたもや夜中にこの建物に近づいた。星のない闇夜に、手元の灯は足元だけを照らすよう、上から黒い布をかぶせて気配をできるだけけした。それは霊を見るためでもあったし、成均館内の見回りから避けるためでもあっただろう。

 

 うわさ話を拾い集めて、そんなことは恐怖心が起こす見間違い、聞き間違いだと三人は笑い飛ばした。扉がいきなり開く。細い女の鳴き声のようなものが聞こえて近づくと、それが怪物の吠え越えに替わる。白いものが漂って冷気に包まれる、など、ばかばかしい、と嗤った三人は、そんなことはありえないことを証明するために建物に近づいた。当然あたりは暗く、寝静まって音は何もない。自分たちも足音を立てず、息もひそめて近くまでくると、矢張り建物は静かにそこにあるだけだ。さて、中でも覗いて帰ろう、そんな風に顔を見合わせたとき、きい、と軋みの音がかすかに聞こえた。

 

 きい、きい、そしてぎい、ぎい、と音は変わり、動けない三人の目の前で扉が開いていく。ゆっくりと。気がつけば冷え冷えとした空気が取り囲み、三人の目はただ扉の動きにくぎ付けだった。

 

 ゆっくりと開ききった扉。そこには誰もいない。真っ暗な穴が開いたような扉の向こうは墨を流したように真っ黒。凝視していると、視界にいきなり現れた白いもの。頬を撫でる冷水のような冷たい気配。

 

 視線はそこに流れた。気がつけば扉の前にその白いものはあった。儒生服だ、と気づいたときには、視線はその白いものの形を追っていた。徐々に見上げていく。扉の前の狭い縁側に立つそれは、完全に儒生の形をしていた。細い首、真っ青な唇、真っ白な頬はそげ、そして。

 

 「洞穴のようながらんどうの目なのに自分たちを睨んでいるのが分かるんだ!睨みながら手を伸ばす。『まだ足りない・・・まだ足りない・・・!あと一語・・・あと一文・・・読まねば・・・読まねば・・・!!』」

 

 

 ユニは再びジェシンに飛びついた。ソンジュンが掴んでいた腕のまま飛びついたので、ジェシンは流石に反対側の手を床につける羽目になり、三人は団子のように重なった。ヨンハは大笑いしている。そしてしばらくしてヨンハの悲鳴が響き渡った。

 

 その日、ジェシンとソンジュンの間に挟まって進士食堂に向かうキム・ユンシクの姿があった。ヨンハはその後ろから頭をさすりながら歩いてくるが二八いている。ユンシク・・・ユニの手はジェシンとソンジュンの袖を掴んでいて、二人は仕方がなさそうに、けれど振り払うことなく歩いていた。

 

 それを見とがめたアン・ドヒャンが訳を聞くと、いやいや、と首を振るユニを差し置いて、ヨンハがしゃしゃり出てきて、ユニが怖がっているわけを話してしまった。頭をさすりながら。ユニを怖がらせすぎたので、ジェシンが腹いせに一発お見舞いしたのだ。ジェシンはヨンハを止めたいが、ユニが袖を離さないので一歩が踏み出せない。ソンジュンは呆れてしまっている。

 

 「あははは!お前は可愛いなあテムル!」

 

 そして遠慮のないドヒャンの笑い声に、ユニの今の状態の原因が何なのか、そこにいる皆に知れ渡ってしまった。

 

 

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