ファントム オブ ザ 成均館 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 こんな歴史ある儒学の学び舎になるとさ、勿論ここにいる間に儚くなってしまった儒生だっているわけ。ん?あからさまな病気だったらさ、勿論親元へ返すだろうよ。だけどさ、大科に向けて猛勉強しすぎて、ちょっと頭がおかしくなってるとかさ、何日も寝てないんじゃないか、って周りが心配していた矢先に冷たくなって部屋で倒れてたりとかさ、あるんだよ。勿論・・・自ら命を絶った奴だっているって聞いたよ・・・。でさ、そのうちのどの人かは知らないんだけど、ほら、あそこ、東斎の長屋から少し離れて建ってるあの建物あるだろ・・・そうそう何にも使ってないのに無駄だとみんな思ってる・・・でもあそこはさ、誰も足を踏み入れたくないし、ましてや取り壊せないんだよ、恐ろしくて。一度あそこを物置にしようとした儒生がさ、こっそり中を覗こうとしたら鍵がかかってて開かないって・・・でもあそこ、鍵なんかないんだよ、開いているのを見た事があるっていう奴もいて、怖いもの知らずが何人か肝試しに夜侵入しようとしたんだよね、そうしたらいきなり扉が開いてさ・・・

 

 バタン!と大声を出したヨンハの声そのものにびっくりして、ユニは隣に座っていたジェシンに飛びついてしまった。あ、とは思ったものの、思いのほか怖かったらしく、せっかく掴んだ頼りになる先輩の腕から離れたくなかったので、振り払われないのをいいことにしがみついていると、ため息が頭の上から降ってきた。ソンジュンだった。

 

 「キム・ユンシク。君のせいでコロ先輩が固まっちゃったよ・・・。」

 

 ソンジュンに引きはがされて、ユニのせっかくの避難先がなくなってしまったが、とりあえずソンジュンが腕を掴んだままでいてくれたので渋々座り直した。ついでにジェシンに謝っておこうと思って見上げると、確かにソンジュンの言う通り、硬直したままじっと前を見据えている。見据えている先は、先ほどからペラペラと演説しているヨンハだった。

 

 「サヨン・・・サヨンも幽霊が怖いの?」

 

 思わずそう聞いたユニの声に我に返ったのか、ジェシンはユニの方をばっと見た。ヨンハの笑い声が中二坊に響き渡る。

 

 「こ、怖くはねえ!この話をこいつから聞かされるのはもう三回目だ!」

 

 「テムル~!コロが怖いのはねえ、おんにゃあ゛っ!!」

 

 ヨンハの爆笑は、ジェシンの拳骨で中途半端に聞こえなかったが、三回目、と首を傾げたユニに、ヨンハを殴った手をひらひらと冷やすように振りながら、ジェシンがはあ、とため息をつく。

 

 「この話は有名なんだよ。成均館の儒生が学問のし過ぎで体を壊す、気が狂った、なんてのは時々ある話で、確かに死人も出た事があるってのは事実だ。ただ、三年あの建物で何かあったなんて、俺は見聞きしてねえしな、大体幽霊自体を信じてねえ。」

 

 ユニがソンジュンを振り向くと、ソンジュンも首を穏やかに振っている。

 

 「俺も、霊魂のあるなしは人の心ひとつにあると思っているからね、あまり興味がないよ。」

 

 そうなんだ、とユニは頷いた。

 

 ユニが成均館にキム・ユンシクとして入学して、早半年がたとうとしていた。非常に濃い半年だった。鳴り物入りで入学したせいか、イ・ソンジュンという皆が親密になりたい権力者の子息となぜか友人としてつるんでいるせいか、なかなかにいろいろと絡まれた。やっかみ、妬みを自分がもたれるなんて思っていなかったし、その感情は確かに自分の立場が低いがために攻撃を生むことを初めて知った。怖いこともあったけれど(何しろ泥棒に仕立て上げられそうになった)、いくつかの問題を潜り抜けるごとに、同室の先輩ムン・ジェシンや、ジェシンの親友ク・ヨンハとも親しさが増し、今では四人一組のくくりで成均館では扱われるほどになった。そして今、残暑の厳しい夜の徒然に、と勝手に怪談話を始めたヨンハに付き合わされていたのだ。

 

 「僕も幽霊は見たことないよ。」

 

 そう言うと、ヨンハはむっくりと体を起こし、痛がっていた先ほどの態度はどこへやら、にこにことユニに向かって笑いかけて来る。

 

 「じゃあ、怖くないよな!よし!続きを聞かせてやるよ!」

 

 

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